日銀総裁記者会見:春闘とトランプ政策を注視:円安を強くけん制せず
日米政策金利がほぼ同時に逆に動くことのリスク
また、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げとの日本銀行の利上げとが重なることで、国際資金フロー、為替市場を動揺させてしまうリスクを日本銀行が警戒したことも、今回利上げを先送りした理由の一つとして考えられる。FRBは米国時間の18日に3会合連続となる0.25%の利下げを決めた。仮に日本銀行が19日に追加利上げを決めていれば、ごく短期間で日米の政策金利が逆に動くことになる。 今年8月の歴史的な日本株の下落の背景には、日米政策金利が逆方向に動くとの観測でドル円レートが急速に円高に振れたことがあった。こうしたリスクの再燃を日本銀行は引き続き警戒しているだろう。 しかし来年1月の決定会合では、同様の問題は生じない。またFRBは、18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.25%の利下げを決めると同時に、先行きの利下げペースが大きく鈍化するとの見通しを示した。1月のFOMCでは、FRBが利下げを見送る可能性が高まっている。こうした環境は、年明け後の日本銀行の利上げを後押しするだろう。
市場との対話という課題は来年に持ち越し
19日の記者会見での植田総裁の説明は、全体的に金融市場が予想していたよりもハト派的であった。FRBの利下げペースが鈍化するとの見方が強まる中、日本銀行が利上げを後ずれさせるとの観測が強まれば、円安が一気に進む可能性があった。そこで植田総裁は、早期の追加利上げの実施を示唆し、円安をけん制すると筆者は予想していた。 しかし実際には、そうしたタカ派色の強い発言は聞かれず、さらに足元では輸入物価に落ち着きが見られるとして、円安を容認するかのような発言もしたのである。その結果、海外市場では1ドル157円台へとさらに円安が進んでしまった。 金融政策を巡る植田総裁の発言は、会合ごとに大きく振れている。10月の会合後の記者会見では、「時間的余裕がある」との表現を今後は使わないと宣言し、早期利上げの観測を強めるタカ派的な発言をしていた。9月の会合後の記者会見は、8月の金融市場混乱の直後でもあり、ハト派的な発言が目立った。その前の7月の会合後の記者会見では、先行き利上げを進める考えを示し、タカ派色が目立っていた。 こうした会合ごとの発言の大きな振れは、金融市場を混乱させる要因ともなっている。日本銀行は今年3月にマイナス金利政策を解除し、7月に追加利上げを行うなど、金融政策の正常化を進めてきた。その中で、市場との円滑な対話が、来年に向けた大きな課題として日本銀行には残ったのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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