「その人にしか見えない何かが必ずある」異色の経営者、CAMPFIRE家入一真社長が語る本当の自分との向き合い方
自分のメンタルのリズムを把握して動く
──個人的な習慣も伺わせてください。先の「朝、どうしても行けない」という話、共感する方も多いと思います。今もそうですか? 少し前までですね。例えば講演を頼まれても、当日、家から出られるメンタルじゃなくて「もう2時間前だ」、「ああ、今出ても間に合わない」と……。 でもようやく、そんな自分との付き合い方が理解できてきました。「テンションが高い時に話を引き受け、約束の当日には、テンションが下がって行けなくなる」、このリズムを把握することで、迷惑をかける回数は減りました。 ──欠点と上手く付き合う習慣を身に着けたんですね? はい。欠点は治りません。でも何かを成し遂げる人って、不器用な方が多いのも事実なんです。起業家に限らず、きっとすべての人の心には穴や凸凹があります。これを無理に埋めようとせず、認め、一点突破する力に変えると、その人ならではの魅力に変わります。例えば既存の社会になじめないからこそ、その人にしか見えない何かが見える、とか。 ──他の人も真似できるようなおすすめの習慣はありますか? 瞑想です。インドに瞑想の修行に行ったこともあります。 いろんな感情で胸がざわつく時、タクシーの中で5分でもいいから、目を閉じ、ゆっくり鼻から息を吸って口から吐くんです。これを繰り返すだけで「なぜ苛立っているのだろう?」などと自分を冷静に見つめられるようになります。この呼吸法は、寝ている時のものに近いらしく、実践すると、脳や体が「落ち着ける状況だ」と勘違いしてくれるようなんです。 ──ここまで話して、家入さんには自他に対する「ゆるし」みたいな優しさを感じます。人と付き合うときの習慣はありますか? 私は「人と人は分かり合うことはない」と思って人と接しています。人間関係には一方向の矢印しか存在しません。例えば信頼している人に単に「信頼してますよ」と言うだけならいいのですが、「だから結果を出してね」とか「だから君も私を信頼して」と言うのは違う。それは相手が持っている矢印です。だから私は、何かギブすることがあっても、そこ止まりでいいと思っています。それでもたまに返ってくるのが人間のおもしろいところです。 ──寛容になれる習慣ですね。 実は犯罪をおかした人の本をよく読みます。そのたび、彼らと自分は同じ「人間」なのだと感じます。人は感情に支配される生き物です。食べ物やお金に困った時に目の前にそれがあっても「私は絶対盗まない」と言えるほど人は強いでしょうか。私は自分と他人の間に線を引き「悪い奴」と石を投げることはできません。 ──体を動かす習慣などはありますか? 最近、農業を始めています。始めた瞬間、変化がありました。今まで車でスーッと通り過ぎていた畑が「土壌は? 農法は?」と色彩を帯びて自分に飛び込んでくるんです。興味が自分の現実を拡張しているんです。そんな体験がしたくて、医療とか、金融とか、様々な業界の人に毎月300人くらい会って話します。すると向こうの問題を「僕たちITスタートアップならこう解決するけどな」と思って新事業に結びついたり、逆に僕たちが足りない部分が見えたりします。 ──最後に伺わせてください。「儲けたい」は家入さんのモチベーションにならないんですか? いえ、利益を出すのは大切なことです。ただ私は、単に儲かるだけでは事業化できないんです。 例えば日本でスマホゲームが流行る前、その分野の先進国だった中国に視察に行ったことがあります。有名な起業家たちに誘われ私も同行したんです。でも結局私だけ別行動をとりました。ドーナツ屋巡りがしたくなったんです。好物だから、色とりどりの珍しいドーナツを目にして「日本で展開できないかな」と。結局実現せず、その後スマホゲームが爆発的に伸びたのはご存じの通りです(笑)。 でも、そんな私だからできる事業がある、とも思うんですよ。 家入一真CAMPFIRE代表取締役 家入一真(いえいり・かずま) 1978年、福岡県生まれ。転職しつつWebデザインを身に付け、2003年にpaperboy&co.(現GMOペパボ)を創業。29歳の時に最年少でジャスダック市場へ上場。2011年にCAMPFIREを創業、以降も連続で起業し2019年には共同創業したBASEがマザーズに上場した。
マネしたくなる成功者の習慣
家入一真さんの場合 Rule.01「この時代に自分がやるからこそ、意味があること」を選ぶ Rule.02 自分の心の穴や凸凹は埋めず、ゆるし、認める Rule.03 感情がざわつくときは、瞑想で脳を休める 取材・文/夏目幸明 撮影/浦 将志
@DIME編集部