アユニ・DとMISATO ANDOが語る、創作物への想いと楽しみ方、BiSH解散後の葛藤と光
お好きなように作品を可愛がってもらえたらっていう気持ちになった(アユニ)
ーそんなアユニさんの現在が記された『意地と光』のアートワークを作るにあたって、MISATOさんはどんなことをテーマに制作したんでしょう? MISATO:このアルバム自体、アユニさんの今しか作れない人生が反映されていると思って。この先も人生いろんなことを経験して、だんだんアユニさんが形成されていくと思ったので、いろんなものを貼り付けた作品にしたいと思って。それでちょっと立体的な平面の作品にしたんです。 ー後ろの背景はどういうことを象徴しているんでしょう。 MISATO:自分のイメージです。『意地と光』って言葉から、自然と手を動かしました。 アユニ:へえ、そしたら、黄色になったんだ。 ーアユニさん自身、『意地と光』はどういう想いを込めたタイトルなんでしょう? アユニ:自分がなぜ音楽をやっているのか、自分にはなぜ音楽しかないと思っているのか、に改めて向き合ったら、自分の中に劣等感や根暗な部分がずっとメラメラと沸々とあることに気づいて。その根本は意地だった。負けず嫌いな部分や意地があるからこそメラメラと燃え盛っている。それに加えて、これからどんな人に私の音楽が届くのかというワクワクだったり、これからどんな景色が見れて、どんな人と出会って、どんな音楽をやっていけるか希望を込めた光がある。この「意地」と「光」が自分の中で情熱にとなると思ったんです。今作を全曲通して、意地と光が全曲に通じていたので、このタイトルをつけました。 ーこれまでのPEDROの作品の中で一番しっくり聴き手の中に入ってくるというか、平たく言うとポップな感じもある作品だなと思いました。そういう自覚とかはあったりします。 アユニ:サウンド面で言うと、フェスでやってお客さんの手が上がるようなポップなロックサウンドも作っていきたいと思っていた部分もあります。反面的に、すごくディープでドープなサウンドも作ってみたところもあって。歌詞や言葉で言うと、前はどうやったら感情が誤解なく伝わるかを考えすぎて、不本意な複雑な言葉の羅列になっちゃっていた気がしていて。でも今作は、自分の感情が100パーセントそのまま伝わらなくてもいいかなっていうか、自分は自分の感情をありのまま書き留めますけど、聴いた方の解釈で受け取ってもらえればいいと思ったんです。その方なりの解釈の仕方で、その方のお守りになればいいなと思うようになってからは、言葉を書くのも苦しくなくって。割とすらすらと書けました。そういう部分が、わかりやすくなったと感じてもらえた要素なのかもしれないですね。 ー前はもっと、誤解されて伝わるとか恐れていた部分があった? アユニ:そうですね。でも、自分と全く同じ生き方している人なんて誰1人もいないじゃないですか。だから自分のことを120パーセントわかってもらうとか無理じゃんって思いました。自分勝手すぎたなっていうか。もちろん自分勝手には書きますけど、お好きなように作品を可愛がってもらえたらっていう気持ちになったんです。 ー『意地と光』の中で気に入っているフレーズはありますか。 アユニ:「アンチ生活」ってタイトルは、最初、ちょっと怖く書きすぎたなって思ったんです。前作が、丁寧な暮らし、生活を愛そうみたいな感じだったんですけど、その期間を経て、私は生活は二の次でいいや、やっぱ好きな人とやりたいことをやっている時間が1番だってことに改めて気がついて。今回「アンチ生活」、反生活みたいなタイトルにしたんです。作品として出す時にはタイトルも変えようと思ったんですけど、今はすごくそこの単語が気に入っていますね。 ーMISATOさんはアユニさんの楽曲に、どんなことを感じましたか? MISATO:アユニさんの日記みたいだなと思いました。曲でいうと、「アンチ生活」に、私が今まで聞いたことのないアユニさんの声が入っていて、ぞくっとしたんです。声から違うアユニさんが出てきたと思ってびくっとなって。歌を奏でてくれている感じが見えました。 ー確かに、歌声からもアユニさんの感情がすごい伝わってくる印象がありました。レコーディング時の歌入れで、何か意識したこととか、変えたことがあるんですか? アユニ:今作は、特に歌い方を変える意識はしていなくて。変わったねってすごく言われるし、それこそボイトレでの先生を変えてみたり、息の吐き方を変えてみたりはしていたんですけど、前は格好よく歌おうみたいな技をたくさん使おうと考えすぎていた。今作は本当に自分が歌いたいように歌っています。あと本作の歌詞が、今の自分を歌っていたので、リアルタイムで歌いながら完全憑依する感覚というか。うまく歌おうっていうより、その曲の想いを、ただ音に出してみたって感じだったと思います。 MISATO:あと「hope」も好きです。 アユニ:うわ、絶対「hope」だと思った! ー「hope」のどういうところに惹かれたんでしょう。 MISATO:曲の感じというか、リズムとかバンドのチーム感含めて心地よくて。ちょっと怖い感じもあって、真っ黒い太陽にずっと見られているみたいな感じで好きでした。 アユニ:いや、思ったのと違いました(笑)。歌詞が見透かされているのかなとか思った。これは、リンリンに対しての歌詞でもあるので。でも確かに、神秘的で、ちょっと不穏な感じは好きそうだったかもしれないですね。 ー今言ったリンリンさんに対しての歌詞っていうのは、どういう部分なんでしょう。 アユニ:この曲は、自分の心のふるさとのような人物に対しての歌でもあるんです。本当に大事な人への歌。リンリンの存在も自分の中でそういった存在なんです。 ー別のインタビューで、リンリンさんがBiSHで作詞した「beautifulさ」の話もされていましたよね。本人の想いとは別の形でリスナーに楽曲が届いていって、BiSHの代表曲になった。そうした経験も、アユニさんがリスナーに解釈を委ねようと思えるようになった1つの要素になっているんでしょうか。 アユニ:すごい気づきになりました。「beautifulさ」って、清掃員のみなさんにとっては希望の歌みたいに捉えられているけど、リンリンが書いた時は絶望の歌みたいなこと言っていたよね? MISATO:諦めの歌。 アユニ:そう。BiSHの曲が好きなんですっていう人で、「beautifulさ」を聴きながら学校や会社に登校・出勤しているんですって人も多くて。みんな「beautifulさ」に勇気づけられている。だから、私の絶望も、見ず知らず誰かさんの希望になれたらいいなって。そういう気づきもありながら書いた作品ではあります。 ーMISATOさん的には、「beautifulさ」の受け取られ方は、現在のご自身の作品作りに影響を与えていると思いますか? MISATO:そうですね。「beautifulさ」を書いてからは、自分だけがわかっていればいいと思うようになりました。最初はなんで伝わらないんだよ!とか思っちゃっていたけど、誰かがそうやって明るく、自分にとっても大事な曲にしてくれていたことがすごく嬉しい出来事になったんです。