【コラム】短期戦闘では米国が勝っても長期戦争は中国が勝利か(1)
「大統領はライオンにならなければならない。ライオンはリスを狩って生きることはできない。カモシカのような大きな動物を捕まえなければならない。トランプ氏はカモシカのような大きなビジョンに集中した」。トランプ次期米大統領と親しかったニュート・ギングリッチ元米下院議長の話だ。小さなことより大きなことに気を遣うという意味だ。2カ月後に再び米国大統領になるトランプ氏にリスではなくカモシカとは何だろうか。中国がそのカモシカ当たるということに格別な異論はなさそうだ。 ◇MAGA実現するには中国からつかまえなくては トランプ氏のスローガンは「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン(米国を再び偉大に)」というものだ。このスローガン達成に向けトランプ氏は大きく、製造業回復と移民制限、海外介入縮小の3種類に重点を置いているが、これらの問題すべてが中国と緊密につながっている。「中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年から2015年までの15年間に340万件の米国の雇用が消え、6万件余りの米国工場が門を閉めた」とトランプ氏は主張する。トランプ氏は中国が自由貿易体制の要求する規則を守らず貿易不均衡が起き、米国の製造業が崩壊したと考える。また、2023年10月から2024年5月までの9カ月間に米国境を超え違法入国を試みて捕まった中国人は3万人を超える。トランプ氏は彼ら「中国人の相当数が身体のがっしりした19~25歳の男性で有事の際に米国内で軍隊を作ることもできる」と話す。 台湾海峡で時と場所を選ばず展開される中国軍の訓練は米国の介入の意志を試す。結局米国を再び偉大にさせるためには中国からつかまえなければならないという結論が出てくるだろう。第2次トランプ政権時代に米中激突は避けられない。どこでどのようにぶつかるだろうか。大きく3つが議論される。最初は貿易戦争だ。主要道具は関税だ。第1次政権当時に中国製品に7.5~25%の関税を課したトランプ氏は、今度は最大60%の高率関税爆弾を投下すると意気込む。この場合米国の対中輸入は85%減り、中国の経済成長率は最大で2.5%下がる見通しだ。今年の中国の経済成長率目標が5%だが半分になるわけだ。また、トランプ氏は米国が1980年から中国に付与してきた最恵国待遇(MFN)の地位も撤回するという立場だ。米国が中国のMFNの地位を剥奪すれば0%である中国製携帯電話と玩具に対する米国の関税率は35%と70%に大きく跳ね上がるという。さらに電子製品から鉄鋼、医薬品など必須商品を中国から輸入するのをすべて廃止する4カ年計画を実施し、中国の米国不動産と事業者買収も遮断するという計画だ。中国としては悪夢に違いない。 2番目は技術覇権戦争だ。バイデン政権は中国への技術流出を防ぐため、「庭は小さく、塀は高く」という政策を推進した。中国に対して無分別に技術輸出統制をするよりは規制が必要な分野だけで強力に統制を断行するという趣旨だった。しかしトランプ氏は高い塀はそのまま維持するが、「庭は小さく」ではなく「庭は広く」という政策を実施するという。バイデン政権時代のデリスキング(リスク縮小)を超え、最初から中国との関係を断絶するデカップリングも辞さないというのがトランプ氏の考えだ。 3番目は台湾戦争だ。トランプ氏は台湾問題に対しては曖昧な立場を見せる。トランプ氏は習近平主席が台湾封鎖に出る場合にどのように説得するかとの質問に「関税を150~200%賦課する」と答えた。中国の台湾侵攻時に台湾保護に出るかとの問いには「話さない。私のカードをすべて見せることはできない」とした。軍事力を使うという返事はしなかったのだ。 それならこれに対し中国はどのように応戦するだろうか。まず米国の関税爆弾はそれこそ衝撃だ。中国の現在、経済体質と体力が弱まった状態のためさらにそうだ。しかし第1次トランプ政権の時すでに貿易戦争を1度経験しており、心理的にはある程度準備ができている点がまず過去と大きく異なる。中国は内部的に景気浮揚策を検討中だ。そうかと思えば中国復旦大学の沈丁立教授は貿易戦争を大きく心配する必要がないという。彼は「トランプ氏の目標は中国の対米商品販売中止ではなく米中貿易が新たにバランスを取ること」と話す。中国が米国に約束した、例えば農産品などを大量に購入して中国の対米黒字を減らせば良いという話だ。沈教授はそうすることが中国自らの改革にも役立つと話す。