橋本愛が「心臓を鷲掴みにされたような衝撃」を覚えた1曲とは?
俳優の橋本愛が、恋人を殺して愛を貫こうとした女を演じる。新宿歌舞伎町で実際に起こったホスト刺傷事件にインスパイアされた映画『熱のあとに』が、2月2日から公開される。第28回釜山国際映画祭では大盛況で迎え入れられた話題作。映画『ここは退屈迎えに来て』(2018)以来の映画主演となる橋本が、本作の撮影を振り返りながら、気合いを入れたいときに聴く“戦闘曲”も明かす。 【写真はこちら】インタビューの様子を見る
言葉と濃密に向き合った、初めての経験
──橋本さんが演じた沙苗は、笑顔を封印した重苦しい表情が続くキャラクターでしたね。 沙苗は心の中でずっと泣いているような女性なので、演じている私も撮影中はずっとつらい気持ちが継続していました。最初はセリフにある言葉の意味をそのまま感情や表情に乗せてみようと思いましたが、山本英監督から「もっと夢の中にいるような感覚で」という指摘がありました。それを受けて沙苗は抱えている感情と出力されるものにズレがある人だと理解して、演じる上では内面の感情を表には出さないように意識し、今まで経験したことのない感覚で演じました。 ──オファーの状況もこれまで経験されたことのないものだったそうですね? プロデューサーもいて制作も決まっている状態でのオファーが一般的ですが、今回は山本英監督、そしてイ・ナウォンさんの脚本しかありませんでした。山本監督からは私を沙苗にと思った理由を書かれたお手紙をいただきました。何もないまっさらな状態でこの役を自分にと思ってくれたのが嬉しかったですし、作品を作りたいという熱い想いを持ってオファーをしてくださるなんて、俳優としてこれ以上ないこと。脚本を読む前の段階から「絶対にやりたい!」と思いました。 ──本読みはセリフを淡々と音読するような「イタリア式」だったとか? 仰る通りで、演じるのではなく言葉の意味や感情を表すことなく淡々と読むというスタイルでした。1日に3、4回くらい最初から最後まで本読みを繰り返して、読めば読むほど「ここにこんな言葉が?」とか「こんな意味が?」という発見が何度もありました。日ごろ使わない脳みそと神経を使って隅から隅まで脚本を読むことによって、書かれている言葉を自分の体に落とし込む実感がありました。沙苗が放つ言葉には彼女なりの主張はあるけれど、相手に伝えようという風には喋っていません。どこか自分の世界の中だけで喋っていて、相手に届く前に言葉が零れ落ちていくような感覚。感情はあるけれど言葉に乗せるか乗せないかのラインです。それは淡々と音読しているときに似ていて、本読みの経験が滲み出たと思います。初めての経験でしたが、言葉と濃密に向き合う面白い時間でもありました。