「投高打低」打破へ…「アイピッチ」や大谷も使用の最新マシン導入、「打撃検定」で地力アップ
[球景2024 投高打低]<中>
プロ野球では近年、科学的なアプローチによる投手の進化が著しい。今季も一層、顕著となった「投高打低」の背景と、現状打破を試みる打者側の取り組みを追った。 【図】一目でわかる…打撃検定のレベルと合格条件
元首位打者が考案
左翼線へ高々と上がった打球が、切れることなくポールの内側に飛び込んだ。「完璧。理想の打撃ができた」。ソフトバンクの石塚にプロ1号が飛び出したのは、8月21日の仙台での楽天戦。育成ドラフトで入団して5年目の右打者は7月下旬に支配下選手登録されたばかりで、一軍デビューから4試合目で記念のアーチを描いた。
成長の裏には球団が今年2月に主にファームの選手向けに導入した「打撃検定」があった。球速や回転数、球の軌道といったデータを入力すれば、その通りに投球できるマシン「アイピッチ」を用い、専用のウレタンボールを打ち返す打球の速度や方向などのデータを計測して打者の打撃能力を測る取り組みだ。
実戦での打球速度に応じて「中長距離打者」と「アベレージ打者」に分け、それぞれに合格基準を設けた。検定レベルは16段階で、135キロの直球を捉える確率を測るレベル1からスタート。レベル16は一軍の主力級を想定し、150キロの直球やスライダー、チェンジアップ、カーブなどを織り交ぜるアイピッチから10打数3安打以上で合格となる。今季は石塚を含めた若手3人がレベル16をクリアした。
考案者の一人が、2013年パ・リーグ首位打者で、現在はデータサイエンス部門に籍を置く長谷川勇也さんだ。検定では打球データにプロの目を加味して「安打」を認定。「日本のトップレベルの守備を想定し、ハードルを高くしている。これを乗り越えないと一軍で結果は出ないよ、という基準は作れている」と語る。
アイピッチを打ち込んできた石塚は、選球眼の向上やミートポイントの広がりに手応えを深めた。練習で打つ1球の質が実戦に近づくことで「試合でしか分からず、試合でしか直せない」と感じていた課題を短い時間で克服できた。だからこそ、「一軍の打席でも、これは絶対に無理だと思うボールはなかった」と言い切る。