奥智哉・青木崇高主演「十角館の殺人」なんだこの幸せな映像化は! 映像化不可能と言われたミステリの金字塔を見事にドラマ化 数少ない改変部分も原作ファンへの目配りがすごい
■原作通りのドラマ化、そのポイントはここだ!
とりあえず、映像と原作の違いを説明するためのコラムなので、些細ではあるけれど映像化にあたって改変された箇所を紹介しておく。まず、青木崇高さん演じる島田潔のキャラクターだ。原作よりも明るくて調子のいい、コミカルな造形になっていた。奥智哉さん演じる江南とのバディ感も強くなっていて、原作にはないふたりの場面や江南のアパートの大家さん(濱田マリ)とのやりとりが加えられるなど、〈本土編〉の比重が増していたのが特徴だ。また、原作でもドラマでも島パートと本土パートが順繰りに描かれるのだが、その順が一部入れ替わっている箇所がある。 もうひとつの改変は後述するが、とにもかくにも原作通り! 小説作品が映像化されるときには何らかの改変が入るのが当たり前──と思っていた。尺の問題やコンプライアンスとの兼ね合いはもちろん、たとえば人気俳優に見せ場を作るとか、スポンサーの意向とか、予算の問題とか、それこそ「映像化が難しいトリック」とか、改変の理由はいろいろあるだろう。だが今回の「十角館の殺人」はさまざまな工夫を重ねることで、改変要素を見事に減らした。 ではそのさまざまな工夫とは何か。まずこれが地上波でも映画でもなく、Huluという有料の配信サービスで制作されたことが大きい。これでまず1話約45分・全5話という構成が可能になり、尺の問題がクリアされた。原作のエピソードを一切カットすることなくドラマに組み込めたのだ。 さらに1986年という設定だ。ドラマを見た人ならお気づきのように、登場人物たちは(女性も含め)隙あらば煙草を吸っている。非喫煙者の方が少ない。また、無人島で食事の用意をしたりコーヒーを入れたりは当然のように女性が行う。現代を舞台にしたのでは違和感がありすぎるし、80年代の話だとしても地上波ではやりにくい演出だ。でも、喫煙者ばかり、台所は女性というこの設定を変えてしまうと物語の展開に差し障りが起きるのである。Huluならそれができる(まあ、地上波もクレーム覚悟ならできるだろうけど)。 もうひとつ、私が感心したのはキャスト発表の段取りだった。キャストは2段階に分けて、まず〈本土組〉〈大人組〉が発表された。島田役の青木崇高さん、江南役の奥智哉さんをはじめ、中村青司に仲村トオル、青司の弟・紅次郎に東京03角田晃広、行方不明の庭師の妻に草刈民代……え、豪華過ぎない? だってこの物語において大人組ってそんな……げふんげふん。そして配信1週間前にようやく発表されたミス研メンバーのキャストは、俳優名こそ紹介されたものの「誰がどの役か」は伏せられていたのだ。わあ、なるほど、こう来たか!