アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解けない謎
Jason Lange [ワシントン 20日 ロイター] - 米国の複数の世論調査機関が、今回の大統領選で再びトランプ氏の支持率を過小評価した理由を究明する作業を進めている。 政治やスポーツのデータ分析を手掛けるウェブサイト「538」がまとめた大統領選前の全米世論調査の平均値を見ると、トランプ氏の支持率は民主党候補ハリス副大統領を1ポイント下回っていた。ところが選挙の開票がほぼ終了した時点で、トランプ氏の得票率は50%、ハリス氏は48%だった。 世論調査は、トランプ氏の支持率を3ポイント低く見積もったことになる。538によると、2020年と16年の大統領選でも世論調査で示されたトランプ氏支持率は実際の得票率よりそれぞれ4ポイントと2ポイント低くなった。 さまざまな要素の影響を受ける統計の精度を踏まえれば正常な誤差の範囲内であり、微妙に意見の違う有権者から電話で正確な回答を得るのはとりわけ難しい。 ただ、全米の世論調査が一貫して同じ傾向を示していることから、調査担当者や専門家らの間には、トランプ氏支持者からなかなか回答してもらえず、支持率の過小評価につながっているのではないかとの疑念が浮上しつつある。 米中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーのマーケット大学法科大学院で世論調査を担当し、専門家団体「米公共意見調査協会」のために選挙前調査の問題点を洗い出す作業部会に参加するチャールズ・フランクリン氏は「トランプ氏支持者とつながるという面で課題があると考えざるを得ない」と述べた。 世論調査でほぼ正確にトランプ氏の勝利を示唆していたアリゾナ、ジョージア、ネバダ、ノースカロライナといった激戦州でさえ、実際の同氏の得票率は、世論調査よりおよそ1―3ポイント高かった。 また、トランプ氏が世論調査で劣勢ながら最終的に勝利したラストベルト(さび付いた工業地帯)の激戦州ペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガンでも、トランプ氏の支持率は同様に2―3ポイント過小評価された。 20年の大統領選における世論調査の精度を分析する作業部会の座長役だったバンダービルト大学の政治研究者ジョシュ・クリントン氏は、こうした明らかな「測定ミス」によって、世論調査や政治制度全般に対する世間一般の不信感を増幅させかねないと懸念する。 クリントン氏は「運営方法全体が認められないというのはかなり大きなダメージだと思う」と語る。ロイターは同氏を含め、米公共意見調査協会が過去に行った検討部会に参加した、あるいは今年の部会に加わる予定の4人に話を聞いた。 一部の専門家は、得票率と世論調査における支持率の差が数ポイント以内に収まっているというのは引き続き素晴らしい成果で、調査機関にとって今後さらに改善するのは困難だろうと強調する。さらに電話調査で回答を得にくい要因として、過去数十年で迷惑メールなどが急増したため、勝手に接触してくる相手には応答しなくなったという事情も指摘する。 16年と20年の検討部会に参加したテキサス大学の政治研究者クリストファー・レジアン氏は「20年ないし30年前とは非常に異なる世界になっている」と話す。 <回答しない支持者> トランプ氏は、自身の政治活動期間を通じて世論調査がずっと同氏に不利な偏見を持ってきたと非難している。 政権移行チームの広報担当者は「世論調査機関やワシントンの評論家、メディアはトランプ氏と彼らの支持者たちの歴史的な連携を常に見くびってきた。唯一意義のある世論調査が行われたのは大統領選の投票日だった」とコメントした。 米公共意見調査協会が20年の選挙後に開催した検討部会は、トランプ氏の支持率を過小評価した原因として、調査に答えた同氏支持者らが相対的に少なかったという可能性を考慮したものの、確たる結論は下していない。 今年の検討部会に参加する専門家2人によると、そうした可能性が再び議論される見通しだ。複数の専門家からは、調査の原数字を加工し、実際に投票する公算が大きいとみなした有権者の回答のウエートを高める作業をする際に、現実とのずれが生じるのではないかといった意見も聞かれる。 <調査機関の取り組み> 世論調査機関にとってトランプ氏の支持を正確に計測するのは特に厄介だ。 トランプ氏が投票対象ではなかった18年と22年の議会中間選挙では、世論調査は共和党の強さを過小評価しなかった。議会選挙だけのときは投票に行かない有権者が、大統領選になると加わって何か違う現象が起きる可能性を示唆している。 フロリダ大学選挙研究所の分析に基づくと、今年の選挙では全有権者の3分の2近くが投票したが、22年の中間選挙では投票率は50%弱だった。 マーケット大のフランクリン氏は今年、トランプ氏支持者と接触するための取り組みを強化した。従来は1つの州を5つの地区に分け、無作為で電話をかけていたが、今年は90地区に細分化し、まず電子メールで答えてくれそうな人に連絡をしてから電話する方式に変更した。共和党と民主党双方の優勢な地域でともに回答率を上げようという試みだ。 同氏の手がけた調査では、トランプ氏の得票率と支持率の差が20年の4ポイントから2ポイント前後に縮まったという。