【#佐藤優のシン世界地図探索67】不敗の戦友vs引き分けの戦友
佐藤 というか、突然、北朝鮮がロシアにシフトしたので、当惑しているのだと思います。ただし、中朝両国は国境を接しています。そして、中国の吉林省にある延辺(えんぺん)には朝鮮人もいます。 ――「延辺朝鮮族自治州」ですね。思いっきりロシアとも陸続きの国境線をお持ちです。 佐藤 すると、北が延辺地区を統合しようとしたら、えらい面倒臭いことになりますよ。 ――不敗の戦友・ロシアがすぐ隣ですからね。 佐藤 そして「北は中国を信頼することはできない」という流れになりましたからね。 ――北は中露を両天秤に掛けて、トランプという"おもり"の出現を待っているのでしょうか? 佐藤 そういうことになります。 ――北からみれば、トランプとは与(くみ)しやすい。一方トランプからしてみれば、プーチンと懇意の北とは仲良くしたいと思います。 佐藤 金正恩にとってトランプが与しやすいかどうかはわかりませんが、二人の間には過去の対話による信頼関係があります。金正恩としてはロシア、アメリカとの関係を併せて調整できますからね。 ――すると、金、プーチン、トランプの三者会談が実現する可能性はありますか? 佐藤 プーチンが進めるのは二ヵ国間の協商関係であって、マルチではありません。 ――なるほど、二ヵ国関係ですもんね。だから、三者会談はないと。 佐藤 そうです。プーチンはあくまで二国間関係をベースに行動したいので、多国間合意でロシア外交の選択肢が縛られるのを嫌がりますよね。 ――納得です。確認ですが、北の核兵器は韓国・日本、米国に向けられていますけど、この標的に中国・北京も加わったのですか?
佐藤 潜在的には加わっていると思います。例えば将来、中国が米国と組んで北に圧力をかけるような事態が生じた場合は、北京も射程圏内に入るはずです。 ――ますます北朝鮮は外交上手でありますね。 佐藤 その通りです。グレートゲーム的な発想からすると、中国は北朝鮮の政権を打倒して、自らのコントロール下にある傀儡(かいらい)政権を作っても構わないわけです。 金正男は中国の傀儡になる可能性があったから消されたという説もあります。私はそうではなく、CIAの協力者になる可能性があったので消されたと見ています。 ――なるほど。すると、北が中露を両天秤にかけている時、"おもり"の行方となるトランプはどうなんでしょう? トランプ政権で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたロバート・オブライエン氏が、トランプが再選した場合、米国は中国を経済的に切り離すべきだと主張しています。やりますかね? 佐藤 そんな損することはしませんよ。それはトランプ周辺にいる人たちの希望的な観測ですね。確かに前回のトランプ政権の時に、いままでの民主党政権の中国依存を軌道修正しました。しかし、中国とのビジネスを止めるかとなったら、それは止めませんよ。 ――あの巨大な経済関係は、止められないですよね。 佐藤 無理です。 ――トランプが返り咲いたら、米国は価値観外交をやらなくなりますか? 佐藤 それは止めることになると思います。 ――面白くなりそうです。 佐藤 米国の持っている閾値が限られていますから、最終的には同じなんです。バイデンよりトランプの方が変化のプロセスが速いだけです。ただ、それが見えない人たちはぼーっとしています。 ――すると米大統領選はトランプになろうが、バイデンのままであろうが......。 佐藤 5年のスパンで見れば、あまり変わりませんね。 ――トランプになったらテンポが速くなるだけですか? 佐藤 そういうことです。では、結局どっちがいいのでしょう? 私はいつまでもダラダラした状況が続くより、トランプが大統領になってはっきりしてしまったほうがいいと思いますよ。 ――これだけ世界が速く動いている時に、無意味な争点によってダラダラと国内を分裂させているバイデン政権では、世の中に追いつけないわけですよね? 佐藤 その通りです。 次回へ続く。次回の配信は2024年7月26日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生