半導体人材育成へ「挑戦的な取り組み」 北関東3大学が連携
北関東で半導体人材育成に向けた動きが加速している。各種メーカーの既存の拠点を生かし、首都圏への人材流出を食い止めるため製造に関わる人材を確保するのが目的。新たに産業集積を進める北海道や九州、先端のグローバル人材育成を目指す首都圏とは異なる動きだ。北関東の国立3大学が協力し共通のプログラムを目指しているほか、産学官連携に向けた動きも始まった。 教育プログラムの共通化 茨城大学、宇都宮大学、群馬大学の工学部は、もともと学部運営に関して情報交換をしてきた経緯もあり、現在、半導体分野の共通プログラム作成を進めている。再来年度の実施に向け、まずは既存の授業の見直しを進めている。工学系全般の授業がそろっている茨城大学、光学分野に強みがある宇都宮大学、環境系や材料分野の多い群馬大学といった、それぞれの強みを生かしたプログラムを目指す。 複数の大学で共通のプログラムを作る動き自体あまりなく、主導する茨城大学の乾正知教授は「挑戦的な取り組みだ」と意気込む。 この取り組みは半導体人材育成のため、大学に対し10の拠点を選出し支援する文部科学省の動きに合わせたもの。来年度から5年間拠点形成に向けた支援を行う予定だ。先端分野の中核的なアカデミア拠点を作るため2年前から始まっている「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」とは異なり、半導体分野の各層の幅広い人材拡充を目指す。地方の拠点校では複数の大学の連携の結果、一つの拠点として採択するようなケースも想定しており、北関東ではこれを狙う。 プログラムの共通化は大学の教員不足に対応するものでもある。甲信越地域を含めた広域関東圏での連携も視野に入れる。 半導体人材育成に関する関東の課題 現在、半導体人材の確保は急務だ。電子情報技術産業協会(JEITA)は今後10年で4万3000人、うち関東では1万2000人の人材が必要になると試算している。これはJEITAの半導体部会に所属する主要9社が算出した数値ではあるが、半導体業界全体での一つの指標といえる。 関東でも、大学が企業に人材を輩出するうえで理工系学部の半導体分野への注力は重要になっている。 北関東には首都圏への人材流出という地域固有の課題もある。茨城大学では県内就職が2割程度、特に売り手市場である理工系人材は首都圏へ就職する傾向が強い。そもそも高校卒業の段階で茨城県内に残る学生は24%しかいない。 一方で北関東には製造業の拠点も多い。半導体分野では検査装置大手のアドバンテストが群馬県にR&Dセンターを持ち、栃木県にはキヤノンが露光装置の工場建設を進める。茨城県にはレゾナックやJX金属といった材料メーカーの拠点やルネサスの車載半導体工場がある。これら既存の拠点を生かし、地元で就職する価値を訴求する動きが始まっている。 「北関東では設計や新産業創出といった先端人材というより、既存の拠点で行う製造に関わるボリュームゾーン人材の育成を目指す」と乾教授は話す。 産学官の連携 地元での半導体人材の育成、活躍を推進するためには、産学官連携での取り組みが重要になる。経済産業省の部局である関東経済産業局では今年度、企業や大学、高等専門学校が参加する半導体人材育成に関する連絡会議を北関東に絞って開設、ワーキンググループも発足した。 国立3大学が主体となり、連携に賛同する企業や自治体と話し合いも進めている。乾教授は「各企業・自治体がどんな能力を持った人材を求め、どういう未来像を描いているのか、まずは共有していきたい」と語った。
電波新聞社