【解説】 ヒトメタニューモウイルスについて知っておくべきこと 中国で感染増加
中国の病院がマスクを着けた人々であふれかえっている様子がソーシャルメディアで広まり、新たなパンデミックへの懸念が高まっている。 中国政府は、インフルエンザに似たヒトメタニューモウイルス(HMPV)の症例が、特に子どもたちの間で急増していることを認め、これを季節的な増加だと説明している。 公衆衛生の専門家らによると、HMPVは新型コロナウイルス(COVID-19)とは異なり、何十年も前から存在しており、ほぼすべての子どもが5歳までに感染しているという。 ただし、非常に幼い子どもや免疫力が低下している人々には、より深刻な症状を引き起こす可能性がある。以下に、知っておくべきことをまとめる。 ■HMPVとは? どのように広まる? HMPVは、ほとんどの人で軽度の上気道感染症を引き起こすウイルスだ。症状はインフルエンザとほとんど区別がつかない。 2001年にオランダで初めて確認されたこのウイルスは、人と人との直接接触や、ウイルスに汚染された表面に触れることで広がる。 ほとんどの感染者は、せき、発熱、鼻づまりといった症状が出る。 シンガポールの感染症専門医、シュー・リー・ヤン教授によると、このウイルスに最も弱いのは、2歳未満の子どもを含む非常に幼い子どもや、高齢者や進行がんの患者など免疫力が低下している人々だという。 感染した場合、免疫力が低下している人々の「少数だが有意な割合」が、肺に影響を及ぼす、より深刻な症状を発症する。これには、呼吸すると笛のような音が出る喘鳴(ぜんめい)や息切れ、クループ症候群(気管やのどの奥に炎症が起こるなどする呼吸疾患の一種)などが含まれる。 「多くの人が入院治療を必要とし、その中の一部は感染によって死亡するリスクがある」と、シュー教授は述べている。 ■なぜ中国で感染が拡大? 多くの呼吸器感染症と同様、HMPVは冬の終わりから春にかけて最も活発になる。一部の専門家は、ウイルスが寒冷な環境でより生き延びることや、人々が屋内にいることが増えて他の人に感染させやすくなることが理由だとしている。 中国北部では、現在のHMPVの急増と、気温の低下が一致している。気温が低い状況は3月まで続くと予想されている。 豪フリンダース大学の疫学者ジャクリーン・スティーヴンス氏によると、現在冬を迎えている、中国を含む北半球の多くの国々で、HMPVの有病率が増加しているという。 「気がかりではあるが、増加している有病率は、冬に見られる通常の季節的な増加である可能性が高い」とスティーヴンス氏は述べている。 アメリカとイギリスの保健当局のデータでは、両国においても昨年10月以降、HMPVの症例が急増していることが示されている。 ■HMPVとコロナは似ている? どれくらい心配? 新型コロナウイルスのようなパンデミックを懸念するのは過剰だと、専門家は述べている。パンデミックは通常、新しい病原体によって引き起こされるが、HMPVはそのようなものではないという。 HMPVは世界中に何十年も前から存在している。これは、世界中の人々が「以前の暴露によってある程度の免疫を持っている」ことを意味すると、前述のシュー教授は述べている。 英イースト・アングリア大学のポール・ハンター教授(医学)も、「ほぼすべての子どもが、5歳までに少なくとも1回はHMPVに感染し、生涯にわたって複数回再感染することが予想される」と述べている。 「したがって全体的に見れば、現在のところ、より深刻な世界的問題になる兆候はないと思われる」 前出のシュー教授はそのうえで、標準的な一般予防策を講じるよう推奨している。混雑した場所でのマスク着用、可能な範囲での人混みの回避(呼吸器ウイルス感染症によるリスクが高い人の場合)、手洗いの徹底、インフルエンザワクチンの接種などだ。 (英語記事 What you need to know about HMPV)
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