外国人でにぎわっているのは都会だけ…コロナ収束、円安で好調な観光客 「地方にも波及させて」
新型コロナウイルスの水際対策が昨年4月に終了し、円安も手伝ってインバウンド(訪日客)が好調だ。衆院選では、経済回復の鍵として訪日客増加や地方誘客を促す訴えがあるものの、鹿児島県内では一部クルーズ船効果を除き実感は湧かない。関係者からは「恩恵を受けているのは都市部だけ。地方にも波及させて」との声が上がっている。 【写真】桜島をテーマとする外国人富裕層向けのツアー内容を考える観光関係者ら=8月21日、鹿児島市の宝山ホール
「約3メートルある鳥居の3分の2が大正時代の大噴火で埋まった。この鳥居は災害を後世に伝えようと当時の村長の思いで残された」。鹿児島市黒神町の黒神埋没鳥居で16日、観光関係者約40人を前にNPO法人桜島ミュージアムの福島大輔理事長(51)が熱く語った。 国は、地方への誘客促進に向けた旅行商品づくりや受け入れ体制強化に力を注ぐ。桜島、阿蘇、雲仙の活火山エリアは、外国人富裕層をターゲットに観光庁が集中支援するモデル観光地。今回のツアーは事業の一環だ。福島理事長は「市街地の目の前にある活火山・桜島は世界に誇れる観光資源」とアピールする。 ■□■ コロナ下で中断していた県内への外国籍クルーズ船寄港が2023年3月再開し、年末までの10カ月間で125回入った。今年は9月末で119回と、最多だった19年の156回を上回るペースで推移する。 寄港回数に比例するように周辺の土産物店の売り上げも上向いている。寄港日の鹿児島市天文館地区は訪日客でにぎわう。特産品を扱う「かご市」の23年度売上額は、過去最高だった18年度の1.45倍。24年度はさらに伸びる勢いだ。
好調に見える県内観光だが、関係者は「そう単純ではない」と口をそろえる。観光庁によると、23年の外国人延べ宿泊者数は1億1775万人と過去最多を更新。ただ7割超は東京、名古屋、大阪の三大都市圏に集中し、地方へ波及しているとは言い難いからだ。 例えば県内の今年上半期(1~6月)の外国人延べ宿泊者数は30万人弱。前年同期の倍以上とはいえ、コロナ前(19年同期)の7割にも届いていない。 ■□■ 滞在時間の短いクルーズ客と異なり、宿泊が伴う訪日客がもたらす経済効果は大きい。ところが「玄関口」である鹿児島空港の国際定期便がネックとなっている。コロナの水際対策緩和後に顕在化した地上職員不足が尾を引き、路線数こそコロナ前に戻ったが便数は半分程度しかない。同じ地方でも、入国者数が増え続ける福岡、熊本空港に水をあけられている状況だ。 県観光連盟の橘木宏幸専務理事(61)は「訪日客の需要増を十分に取り込めていない」と認める。一方、24年版観光白書では、地方への訪問意欲を高める要素として「飲食」「文化」「温泉」が上位に入る。「鹿児島のポテンシャル(潜在力)は高い」とし、欧米など新市場開拓のために地道な売り込みを続けていく。
訪日客は各地の観光地を移動する。橘木専務理事は「活火山のモデル事業のように、テーマを設け複数地域と連携した取り組みは有効だ」と指摘する。地元が推す観光素材を見極めつつ、戦略的で広域な受け皿づくりが国には求められる。
南日本新聞 | 鹿児島
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