日本の海事産業の復権かける…「アンモニア燃料船」開発、四つの意義
独・スイスと開発競争
アンモニア燃料船の開発をめぐる国際競争は激化している。中核となる主機関エンジンについて、ジャパンエンジンの進藤誠二常務は「競争は三つ巴(みつどもえ)だ」と話す。競合はWinGD(スイス)と独MANエナジー・ソリューションズ(ES)で、いずれも歴史あるエンジンメーカーだ。 WinGDは、ガス輸送会社のエクスマール(ベルギー)からの発注で現代重工業(韓国)が建造する液化ガス運搬船向けのアンモニア2元燃料エンジンを受注した。25年にエンジンを供給する計画で、同船の商用化は26年前半を目標とする。 MAN ESは、シンガポール海運大手のイースタン・パシフィック・シッピングが発注する船舶などにアンモニア2元燃料エンジンを供給し、伊藤忠商事主導の日本のプロジェクトにも参画する。26年前後にエンジン完成を目指している。 計画上は外航船向けのアンモニア燃料の主機関エンジン開発は海外勢が一番乗りだが、進め方に違いがあり、計画通りになるかはまだ分からない。 進藤常務は「ジャパンエンジンとMAN ESは試験エンジンを回して開発しているが、WinGDは回していない」と話す。開発で2社に後れをとっていたWinGDは、容器内でのアンモニア燃焼試験とコンピューターシミュレーションによってエンジン状態を予測し、巻き返しを図ろうとしている。
国内3社“全方位戦略”、メタノール・水素の使い分け探る
最大の焦点はアンモニアが船舶の脱炭素燃料として普及するかどうだ。候補はほかにグリーンメタノールや水素がある。 特にメタノールは、世界最大のコンテナ船海運会社のAPモラー・マースク(デンマーク)が燃料供給体制から船舶の発注まで精力的に取り組んでいる。常温で液体状態であり、アンモニアよりも取り扱いが簡単だ。 日本郵船を含む国内海運大手3社は、脱炭素燃料に対し全方位戦略をとり、メタノール燃料や水素燃料にも取り組む。商船三井の橋本剛社長は、「世界の海運の需要は1種類の燃料では満たせない。使える燃料は何でも使うことになるだろう」と語り、船種による使い分けを予想する。 だが、その中でもアンモニアは本命中の本命だ。「舶用燃料は大量に生産する必要がある。アンモニアが大量生産に一番ふさわしい」と日本郵船の曽我社長。供給網を構築するため、日本郵船はアンモニア生産に関わる可能性も否定しない。 アンモニアは大気から分離した窒素と水素を高温高圧下で反応させる「ハーバー・ボッシュ法」で製造されている。大量生産に適しており、製法の発明から100年以上たつ今も変わらない。 だが、現在は天然ガスを改質して原料の水素を製造するため、副産物の一酸化炭素からCO2が発生する。水を電気分解して製造した水素を使う場合は、水素を高圧化するためにエネルギーを使う。そこで低温低圧下でアンモニアを製造する技術が研究されている。 アンモニア燃料船が市場へ船出するには、いくつものハードルがあるが、メタノールだけ、水素だけで海運の脱炭素化を実現することも想像しにくい。ハードルを一つずつ乗り越える必要がある。
日刊工業新聞社