NHK 美術チームの真髄がここに! 『光る君へ』の世界を形作る職人技の裏側を聞く
廃邸
廃邸はまひろと道長(柄本佑)の逢瀬に使用された印象的な場所だ。 「元は貴族の屋敷であった場所がいまや風化し荒れ果てた空間となっている。そこで逢瀬を重ねるまひろと道長。2人の人生の岐路にあたる特別な場所に、『六条』『夕顔』『なにがしの院(廃院)』『ものの怪け』など『源氏物語』から連想される要素を盛り込みながら、この世ともあの世とも分からない幻想的な世界を表現。目指したのは『諸行無常』の儚さ。自然に還りつつある寝殿や池の面影がかつての栄華を感じさせる。朽ち果てていくものと生きようとする植物の力、それらを照らし続ける太陽と月光が、隔世された神秘的な場所を作りあげました」と山内さん。 ヒントにしたのは平安神宮の東神苑にある「泰平閣」という栖鳳池を東西にまたいだ橋殿だ。それがまひろと道長の離れたり近づいたりする距離感を表現しやすいのではないかと考えた。 オンエアで印象的だったのは、まひろと道長が結ばれる場面で、崩れ落ちた屋根の穴から月が見えるところ。空から光と共に銀粉が降り注ぐ幻想的な画になった。 「月から滴る雫がほしいという演出の黛りんたろうさんのリクエストで作りました。照明、特殊効果のスモーク、美術の三位一体によって、『源氏物語』の世界観のような雰囲気を作りあげました」 廃邸やまひろの家には寝殿造りの庭園に欠かせない池があるが、どのような思いで作り込んでいるのだろうか。 「池はこの世とあの世をつなぐ三途の川のイメージもあります。また、水は男女のゆらぎや心のゆらぎも表しています。月や顔が映すこともでき、水があることで画が幻想的になっています」 このように『光る君へ』の世界観を美術が似合う部分は大きい。毎回、細部までじっくり観察したい。
木俣冬