NHK 美術チームの真髄がここに! 『光る君へ』の世界を形作る職人技の裏側を聞く
平安京は優雅にスケール大きく
京都御所などもつぶさに見学し、セットでは清涼殿の間取りや、調度品など可能な限り平安時代の状態を表現している。 「京都御所の見学に行くと見ることのできる、年中行事御障子もオリジナルで制作しましたので平安ファンにはぜひ注目してほしいです」 セットの図面を書いているデザイナーでNHKアートの枝茂川泰生さんはこう語る。 「清涼殿は、ほかのセットより柱間を広くしています。NHKのスタジオに原寸大を再現することは不可能なので、部屋数を調整し、全体のプロポーションをリサイズしました。それでもスケール感は出したいので、大河ドラマ史上最大の屋根を作りました。安全性が保てるまでの最大限のサイズです。そして、屋根の裏をあえてみせるような撮影をすることで、スケール感を強調しています。清涼殿や東三条殿の廊下(廂)は3メートル近い幅広の廊下にしました。演出の中島由貴さんのリクエストであり、それによって廂に俳優を出して撮影することができて、照明も当てやすく、明るい画面づくりが可能になりました」 ちなみに、平安時代の建物は風通しが良いが、雨露、寒さはどう防いでいるのだろうか。 「寝殿造という様式では、上下に蔀戸という、跳ね上げて開け閉めする板戸があります。ドラマ上ではほぼ開けていますが、これで室温や明るさを調整していたと思われます」 セットをよく見ると蔀戸も作ってあるのがわかる。
小旅行の場としての石山寺
第15回でまひろが詣でた石山寺(滋賀県)は、鎌倉期以降に描かれた『石山寺縁起絵巻』を読み解いて、実際に現地を取材したうえで、雅感のある美術セットを作りあげたと、デザインを担当したNHKアートの羽鳥夏樹さんは語る。 「実際の石山寺は、長い石段を上った先にあり、巨岩の上に建物が建っています。その野趣あふれるスケール感をスタジオで表現することは難しいですが、広い境内、山、谷、川、自然に囲まれた様子など、貴族たちの間では小旅行の場のようだったであろう雰囲気を、各所にちりばめました。まひろたちが掛けている赤い懸帯にも小旅行感が出ています」 やはり資料だけではなく、残っているものは実地に見て身体で感じることが大事なのだ。ドラマの季節は秋、ということで紅葉が色鮮やかであった。 「眺めのよさをセットに落とし込むように工夫しました」(羽鳥)