ひろゆき、中野信子と脳を科学する⑤ 忘れっぽい人のほうが「コミュ力が高い」って本当なのか?【この件について】
ひろゆきがゲストとディープ討論する『週刊プレイボーイ』の連載「この件について」。脳科学者の中野信子さんをゲストに迎えた5回目のテーマは、「脳科学とは何か?」、そして「記憶力とコミュニケーション能力」について。記憶力がいいと困ることもあるみたいです。脳科学って、意外と面白いですよね。 「記憶力が良すぎるとコミュニケーションの阻害要因になる可能性があります」と語る中野信子 *** ひろゆき(以下、ひろ) 今回は中野さんが専門にされている脳科学について教えていただけますか? 中野信子(以下、中野) はい。脳科学という言葉は20世紀には聞かなかったと思います。この言葉が登場したのは、1990年代に〝脳の機能を見られるMRI〟である「fMRI」が開発されてからなんです(MRIは強い磁石と電波によって体内の状態を断面画像にして映し出す検査のこと)。 ひろ それまでは、どんな研究方法だったんですか? 中野 健康な人の脳を直接調べることが難しかったので、主に亡くなった方や病気の患者さんの脳を調べる方法が中心でした。例えば、脳卒中や脳梗塞、脳出血などで脳に障害が起きた患者さんを研究していました。 ひろ 頭皮に電極を張って脳波を調べるみたいな研究はしなかったんですか? 中野 やっていましたが、脳波測定には限界があるんですよ。特に信号源の正確な推定が難しい。反応のタイムコース(時間の経過による変化)を見るにはいいんですが、マッピングとしては恣意的になってしまう可能性がありました。ところが、fMRIが登場したことで一変します。「脳のここの部分が活性化しています」ということがわかるようになりました。 ひろ つまりfMRIで、リアルタイムに電磁気が発生している場所がわかるようになったということですか? 中野 その理解はおおむね正しいですが、少し補足が必要です。fMRIで見ているのは直接的な電気活動ではなく脳の血流なんです。 ひろ 血流ですか? 中野 はい。少し複雑ですが説明しますね。私たちの血液には酸素を運ぶタンパク質のヘモグロビンが含まれていますが、酸素を運んでいるヘモグロビンと酸素を放出した後のヘモグロビンでは、磁気的性質が少し異なるんです。fMRIはこの違いを利用して、脳のどの部分で酸素が多く使われているか。つまり、どの部分が活動しているかを推測します。この血流の変化と実際の神経活動の相関については、まだ議論の余地がありますが、現在の脳科学はこの研究を基盤として進められています。 ひろ ちなみに、脳は寝ているときもカロリーを消費し続けていると思いますが、例えば冬眠する動物はどうなんですか? 中野 冬眠について私は専門外ですが、完全に活動を停止しているわけではないはずです。活動レベルは大幅に低下しますが、生命活動を維持するために最低限の代謝は行なっているでしょう。人間などの生物は、代謝を完全に停止すると細胞の分解が始まりますから。 ひろ 死んじゃいますよね。 中野 はい。例えば人間はオレンジジュースを飲むと体内にオレンジジュースの成分が入ります。で、オレンジジュースの成分は、代謝されて尿や汗になって出ていきます。この代謝によって生命活動に必要な機能を維持しているんです。