「Jリーグとは違う」サッカーU-23日本代表が肌で感じた実力差。隠しきれなかった戸惑い…。五輪不参加の危機に【コラム】
U-23日本代表は22日、国際親善試合でU-23マリ代表と対戦し、1-3で敗れた。アフリカ勢特有のプレーに対峙した選手たちは普段身を置くJリーグでは見せないようなミスを連発。五輪出場をかけたアジア最終予選を前に、出場国との実力差を痛感させる内容になってしまった。(取材・文:元川悦子) 【グループリーグ順位表】パリオリンピック(パリ五輪) 男子サッカー
●勢いのあるメンバーを送り込んだU-23日本代表 4月にパリ五輪アジア最終予選を兼ねたAFC U-23アジアカップカタール2024を控えるU-23日本代表。4月16日の初戦U-23中国代表戦を皮切りに、U-23UAE代表、U-23韓国代表とグループリーグを戦い、さらに決勝トーナメントで3位以内に入らなければならない。4位はアフリカ勢との大陸間プレーオフに進出できるが、ワールドカップ(W杯)アジア予選とは比べ物にならないほどの狭き門だ。 にもかかわらず、ご存じの通り、同大会はインターナショナルマッチデー(IMD)外で、所属クラブに選手派遣義務はない。現状では、チームの中核を担ってきた鈴木唯人、斉藤光毅、三戸舜介、小田裕太郎らの招集が難しいと言われている。 「正直言って、危機感しかない」と山本昌邦ナショナルチーム・ダイレクター(ND)も語っていたが、本当に最大限の力を出さなければ、96年アトランタから続いてきた五輪出場が途切れる可能性もある。 それだけに、最終予選直前の活動となる3月シリーズの重要性は高い。22日のU-23マリ代表戦は彼らにとって初のアフリカ勢との一戦であり、大陸間プレーオフに進んだ場合のテストとしても大きな意味があった。 大岩剛監督が送り出したのは、開幕したばかりのJリーグで結果を出している国内組中心のメンバー。目下、首位に立っているFC町田ゼルビアの平河悠、藤尾翔太ら勢いのある面々がすでに五輪出場を決めている強豪に挑んだ。 ●痛感した違いと露呈した不安要素 U-23日本代表の入りは悪くなかった。開始早々の2分に得た右サイドからのFKを名手・山田楓喜が蹴り、植中朝日がスラしたボールを相手DFがクリア。このこぼれ球に飛び込んだ平河が豪快な右足シュートを蹴り込み、いきなり先制点をゲットしたのだ。 ところが、直後にDFラインの西尾隆矢のミスパスを高い位置で拾われてそのままシュートに持ち込まれた。GK野澤大志ブランドンが弾くというヒヤリとするこのシーンを機に、U-23日本代表はU-23マリ代表に攻め込まれるようになる。アフリカ勢特有のフィジカルやスピード、足がスッと伸びてくるところに選手たちが戸惑い、対応に苦慮する様子が見受けられ、国際経験不足を露呈する形になった。 「足が伸びてくることだったり、単純な身体能力の違いを痛感した」とDF陣の主軸である西尾も苦渋の表情を浮かべたが、そのあたりは最終予選に向けての不安要素と言っていい。 悪い流れを断ち切れず、U-23日本代表は34分に失点してしまう。それもGK野澤からボールを受けた川﨑颯太の横パスを相手にカットされ、そこから10番のマスドラ・サンギャレに決められた形だった。川﨑本人はこのミスを次のように振り返る。 ●隠しきれなかった戸惑い「ミスしてはいけないミス」 「相手は純粋に走るスピードが速いし、Jリーグとは違ったスピード感でやられたっていうのは、本当に悔しさしかない」。相手には一瞬の隙を突く老獪さも併せ持っている。大岩監督も「前半は特に戸惑った選手が何人かいたし、圧力に対して少し消極的になった部分があった」と厳しい評価を下していた。 1-1で折り返した後半。日本は山田と植中を下げ、エースFW細谷真大と染野唯月を投入。攻撃の迫力を加えようと試みたが、逆に53分に相手エース・ママドゥ・サンギャレに豪快なミドルシュートを打たれ、これをGK野澤がこぼし、最終的にママドゥ・トゥンカラに詰められ、2点目を献上。逆転を許してしまった。 「GKとしてミスしてはいけないミスが多く続いていた。代表戦では決してやってはいけなかった」とA代表の一員としてAFCアジアカップカタール2023に参戦した守護神は反省しきり。今季の野澤はFC東京では控えに甘んじており、試合勘の不足が出たのかもしれない。鈴木彩艶を最終予選に招集できないことが確実となっている今、A代表経験のある野澤には安定感のあるプレーが求められるところ。今回のミスを糧にしなればいけないだろう。 リードしたU-23マリ代表はここからペースダウンすると思われたが、試合終了間際の時間帯にダメ押し点をもぎ取ってきた。左サイドのスローインから途中出場のブライマ・ディアラが爆発的なスピードで突破。折り返したところで合わせたのがブバカル・トラオレだった。 この時間帯、ピッチに立っていた佐藤恵允も「やっぱり90分戦っても落ちない運動量とキレとかはすごいと思います。そこは本当にアフリカっぽい」と苦笑していたが、最後の最後までU-23日本代表は相手とのフィジカルの差の埋められないまま、1-3で苦杯を喫したのである。 ●紛れもない事実「逃げていたら絶対にダメ」「個人だけでなくて組織として…」 やはり実力差は大きかったが、山本理仁、藤田譲瑠チマや佐藤といった欧州組は日頃から大柄で屈強な選手たちと戦っている分、対応に慣れていたのは事実。そこは国内組の面々との違いだった。 「僕のいるドイツにはアフリカ系の血を持ったドイツ人選手も沢山いますし、自分にとっては身近でしたけど、やっぱり日本でやっている人は初めての経験だったと思います。ボールを奪えたと思っても、後ろから足が伸びて、相手ボールになるようなシーンがかなり見受けられた。彼らはロストしたと思っても諦めないし、そこが推進力につながっている。バネもすごい。そういう相手との試合を経験できたのが大きかったと思います」 佐藤も語るように、U-23マリ代表を相手に感じた1つ1つを最終予選に生かさなければ本当に意味がない。 「こういう身体能力の高い相手から逃げていたら絶対にダメ。本当に細かいところを突き詰めてないと、3点目みたいな失点をしてしまう。そこは全員で共有しないと。個人だけでなくて、組織としてしっかりチャレンジ&カバーをしないといけないと思います。距離感が遠かったらこぼれ球も全部拾われてしまいますし、そこを改善するだけで守れるところは絶対にある。コミュニケーションをとってやっていく必要があると思います」 DFリーダーの西尾も強調するように、大岩ジャパンの成否はわずかな時間でいかにして強固な組織を構築できるかにかかっているのだ。 山本と藤田も最終予選参加は五分五分だと言われるが、だからこそ、彼ら欧州組が持っている経験値を国内組に還元し、球際の部分で勝つところから始めないと、U-23マリ代表のみならず、アジアのライバルに飲み込まれてしまいかねない。彼らにはこれまで以上の厳しさを持って、細部を徹底していくことを強く求めたい。 3月の残された活動は25日U-23ウクライナ代表戦までの3日間しかないが、限られた時間を有効活用し、ベストを尽くすしか、五輪切符をつかむ術はない。西尾が語った通り、逃げずにぶつかっていくことが肝要だ。 (取材・文:元川悦子)
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