Apple Vision Proを支えるvisionOSは何を目指すのか。開発者が語る新連載「バスケの言い分」第1回
どうも、バスケです。サンフランシスコの近くでエンジニアをやってます。2000年代の初め、Mac OS Xが出た頃から5年ほど、MacPower誌において「バスケの言い分」というコラムを書かせてもらってました。 2月2日に米国で発売のApple Vision Pro 久々に文章を書きませんか?という依頼をいただきまして、それではあのときの続きということでこのタイトルとなりました。今回は僕がハマっていることについて広く書いて良いということなので、Appleのことだけでなく3Dプリンタとか他のエンジニアリングトピックも拾っていければと思います。よろしくお願いします。 さて僕は古くからのMac周辺のエンジニアでして、かれこれ35年ほどAppleテクノロジーと共に生きてきました。 しばらくアプリとか作ってなくて熱もすっかり覚めたなーと思っていた2023年の6月、WWDCで発表されたApple Vision Proにいたく衝撃を受けてまして、そこからVision Pro発売日である2月2日(日本時間では3日)に向けてアプリをゼロから作り始め、半年間頑張った結果、先週ようやくアプリ「Cube Real」をApp Storeにサブミットすることができました。 僕をそこまで突き動かしたのは何か。Vision Proというプロダクトにも惹かれたのはもちろんなんですが、エンジニアとしての興味はVision Proを支える下回りであるvisionOSと、Appleが提唱する新しいコンセプトである空間コンピューティングという考え方のほうでした。今回はこの辺りを開発者視線で追ってみたいと思います。
「単なるVRヘッドセット」なのか
アメリカのメディアにはVision Proの発売日を前にしてデバイスが配られているようで、発売前のこのタイミングで大手のメディアからはレビュー記事が一斉に出てました。 それらレビューを読んで内容自体よりも気になったことが「Appleはそう呼ぶなと言ってるけど、結局はVision Proは単なるVRヘッドセットなんだから」というような主張をしているレビューが結構多かったことです。そうなんでしょうか? 例えばこれが、テスラのレビューだったとしたらどうでしょう。「いろいろ装備は新しいし電気自動車だしかっこいいけど、結局は車なんだから」という主張をする人がいたとしても、それはもっともだなぁと思います。先進性、段違いの使い勝手、それら全てが別次元のものであっても結局は車、空を飛ばそうとか車に住もうとか新しい概念が生み出されているわけではありません。 例えが古くて申し訳ないのですが、もし初代のMacintoshが発売されたときに、これを評して「単なるパソコンでしょ、IBM PCと変わんないじゃん」などと言ってる人がいたらどうでしょう? 確かにMacintoshはパソコンの筐体でした。コンパクトでデザインもよい、素敵なパソコンです。でもそれまでのパソコンとは明らかに違った。新しいものがそこで生まれていたのは歴史を見れば明らかでしょう。 さてVision Proはどうなんでしょう? Appleの主張を見れば、これは空間コンピューティングというものを実現するデバイスで、単なるVRヘッドセットではない、と言っています。 まずはこの主張を正面から受け取って、どの程度の妥当性があるのか真摯にレビューしてみたいと思います。レビューする側が、最初から「空間コンピューティング」は単なるマーケティング用語にすぎないと先入観に囚われないようにする必要があると思うのです。 もしレビューの論調が「空間コンピューティングを目指していると言っているが、現時点では所詮VRヘッドセットと違いないよね」という指摘であれば納得できます。言いたいのは空間コンピューティングという概念を単にマーケティング用語としてしかとらえる前に、もうちょっと考えてみましょうよ、ということなのです。
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