最速大関「大の里」に見えた横綱昇進への課題 独走を許した「稽古不足」の先輩大関とは?【音羽山親方の秋場所総括】
右四つからの下手投げを得意とするなど、現役時代は「玄人好み」の相撲で活躍した71代横綱・鶴竜。昨年12月、東京都墨田区に音羽山部屋を創設し、4月に元弟弟子の関脇・霧島が転籍するなど弟子の数も徐々に増えている。22日に千秋楽を迎えた秋場所では、同じ一門の審判委員の休場に伴い、急遽12日目から勝負審判を務めることに。土俵下からも鋭い視線を注いでいた音羽山親方に、秋場所の土俵を振り返ってもらった。【ノンフィクションライター/武田葉月】 【写真】賜盃を手に「引き締まった表情」の大の里…若き力が躍動した秋場所
相手を圧倒する相撲が印象的
――今場所は関脇の大の里関が、初日から11連勝。その後も力強い相撲で、13勝2敗で2度目の優勝を遂げました! 音羽山:以前は胸から行く相撲が多かったのですが、今場所は左のおっつけが強烈で、突き押しもどんどん繰り出していました。あれだけの体(192センチ、182キロ)で立ち合いから突進して、さらにスピードもあるのですから、2人の大関(琴櫻、豊昇龍)だって勝てませんよ。とにかく、相手を圧倒している相撲が印象的でした。 ――夏場所で初優勝(12勝3敗)したものの、名古屋場所では9勝止まりでしたので、場所前は大の里関の「大関取り」に関して、積極的な話題になりませんでした。 音羽山:そうですね。大関昇進の一般的な基準としては、三役で3場所の勝ち星が33勝以上とされていますから、大の里の場合、今場所は12勝以上が求められていました。ただ、先場所は対戦する力士たちに研究されたこと、初優勝の疲れなどもあったのか、大の里らしさが見られなかった。ですから、今場所は大関昇進の足場固めをして、11月の九州場所で本格的な大関取りを……と見る向きが多かったのも事実でしたね。
大関になると見える風景が変わる
――大の里関はそうしたムードを一掃する優勝に加えて、昭和以降史上最速、所要9場所での大関昇進を決めました。大銀杏を結えない「チョンマゲ大関」の誕生です。 音羽山:大関昇進伝達式では、「唯一無二の力士をめざす」という口上を述べていましたね。私も経験がありますが、大関になると下位の力士たちは、「一丁、倒してやろう!」と、目の色を変えて向かってきますし、見える風景が変わってくるものです。 大の里が所属する二所ノ関部屋は、現在、関取が白熊のみで、部屋での稽古では師匠(元横綱・稀勢の里)みずから胸を出して指導をしている日もあると聞いています。これから先、上(横綱)をめざしていくのなら、自分でライバルとなる力士を設定して、巡業などで徹底してその力士と稽古するなど、工夫が必要だと思いますね。