スペイン紙が危惧「気候変動で松尾芭蕉の世界が消えてしまうかもしれない」
俳句を詠む際に使われる「季語」。その季節を表す言葉であるはずだが、気候変動の影響を受けてズレが出てきているという。スペイン紙記者が、この環境の変化が俳句の世界にもたらす影響を考えた。 【画像】松尾芭蕉は1677年から4年ほど、ホテル椿山荘東京に隣接する関口竜隠庵(関口芭蕉庵)に住んでいた 地球温暖化によって引き起こされた気候サイクルの乱れが、日本の伝統的な詩形である「俳句」に影響を与えはじめている。俳句は、ときの流れや自然のリズムに着想を得て、儚い世界を創り出す詩である。世界で最も短い詩形の一つとして知られ、典型的な形式は、5音、7音、5音で構成された3つの句からなり、「季語」と呼ばれる季節を表す言葉を含むことが求められる。 その役割は、描写される場面の季節感を伝えることにある。国際俳句協会理事で、日本大学で英文学を教える木村聡雄はこう説明する。 「この規則の起源は、私たちの日常生活にあります。誰かと会うと、私たちはたいてい天気について話します。『暑いですね』や『雨はやむでしょうか』といったように」 俳句が独立する前の17世紀まで、日本の文化人たちは複数の人で句を詠み合い、作品を作っていった(俳諧連歌)。そこでは機知に富んだ句が主流で、ときにおかしみを含んだ句が詠まれることもあった。木村はこう続ける。 「5、7、5の音からなる最初の句(発句)には、挨拶の意味を込めて、季節を感じさせる言葉を入れなければなりませんでした」 発句は通常、参加者のなかで最も年長の者が詠みあげ、とりわけ注目された。それがときを経て独立し、本質をついた簡潔な詩形となったのだ。それはまた、日本の文化に見られるミニマリズムと一致していた。簡潔な作品のなかで季語は、「その季節にまつわる多くの情報や感情を共有することを可能にするのです」と木村は指摘する。 「蝉の声」のような夏を象徴するモチーフが、短い句に含まれる意味合いをいかに豊かにするかを説明するため、木村は俳諧の巨匠、松尾芭蕉の句のなかでもとくに好きだという一句を例にあげる。 「閑さや岩にしみ入る蝉の声」 そして木村は、こう語る。 「蝉は夏の暑さを連想させるだけでなく、木の上でほんのわずかな期間しか生きないため、力の限りを尽くして生きるよう訴えます」 蝉のほかにも、季節と関連づけられる生き物や植物、自然現象、祭り、食べ物が何千とあり、俳人たちは、それらがまとめられた「歳時記」と呼ばれる書物を参考にする。 ところが、詩的な目録であると同時に気候の暦である「歳時記」に含まれる項目の多くが、環境の変化によって開花の時期や生き物の冬眠、繁殖、移動パターンが変化するにつれて有効性を失いつつあるのだ。