J1復帰の湘南ベルマーレ監督と清宮パパの意外な友情の絆
もっとも、なぜいまになって『ALIVE』を拝借しようと思い立ったのか。答えは充電を目的に毎年オフに必ず足を運ぶヨーロッパの地にあった。特に昨年12月に初めて訪れた、イタリア北部のベルガモという人口約12万人の小さな町で運命的な出会いが待っていた。 徹底した育成主義のもと、ベルガモを本拠地とするアタランタBCを昨シーズンのセリエAで4位に躍進させたジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督(59)と、30分間ほど話ができる機会を得た。 「当然ですけど、監督としての器や考え方のレベルが違った。ガスペリーニ監督が言うには、いまはチームに対して、選手たちが評価を下すのが早いということ。ひと昔ならば石の上にも3年という感じだったけど、いまは一度でも疑問に感じられたら、選手たちの気持ちも離れていってしまうと。 なので、いい選手を預かればいずれは成長して自分のもとから離れていくと、監督は思わなければいけないとも言われた。周囲から評価されて、さらに上のステージへ行きたいと選手たちが望むのは当然だと。だからこそ毎日の練習が極めて大事だと言われて、ものすごく心に響いた」 ベルマーレも育成を大事にしてきた自負がある。迎える2018シーズンへ。情熱のレベルをさらに引き上げなければいけないと、曹監督は奮い立たされた。プレーしている選手が楽しいと感じ、見ているファンやサポーターが心を動かされる瞬間を数多く作りたい。抽象的にも聞こえる目標を表す、キャッチーな言葉を探したときに思い出したのが『ALIVE』だった。 「二番煎じになるかな、とも思ったんですけど。それでも、サントリーからいまのヤマハに移って一から強いチームを作りあげる気概というか、他の人と同じことをするのを嫌がるところを含めた、清宮さんという素晴らしい指導者が扱った言葉にあやかりたいと思った。 今年のチームはピッチのなかでも外でも、常に生きているんだということをビジョンとして示せるようなサッカーを追い求めていきたい。特にピッチのなかでは、プレーに関わらない時間を一人ひとりができるだけ少なくして、勝利への責任を等しく背負うチームにしていきたい」 新体制発表会見でのお披露目に先駆けて、11日のシーズン初練習前に行った約1時間のミーティングでは、選手たちの意識へ何度も『ALIVE』と訴えかけた。1週間が経過した練習では、かつてのサントリーサンゴリアスのように「アライブ!」が飛び交っていると曹監督は目を細める。 「非常に言いやすく、選手たちのなかにも入りやすい言葉だと思うので。言葉はチームの姿勢を変える、と当時の清宮さんは言っていたけど、いまではわかる気がする。スローガンが独り歩きして、清宮さんの名前を汚さないように頑張っていかないと」 偶然に導かれた出会いから30年ちょっと。お互いをリスペクトしながら育まれてきた強く、太い絆を介して蘇った『ALIVE』が、現役のJクラブ指揮官では最長タイとなる、7シーズン目を迎えた曹監督のもとで戦うベルマーレの羅針盤となる。(文中一部敬称略) (文責・藤江直人/スポーツライター)