“たった8%”の残酷な差が「PK戦の勝敗」を分ける、超一流プロも逃れられない「認知バイアス」の罠の正体とは
では、PKではどのような損失回避バイアスがみられるのでしょうか。ここで、冒頭で取り上げた駒野やバッジョのPKを思い出してみてください。 彼らはゴール上段を目指してキックしており、枠外に外してしまいました。PKは枠外に蹴ってしまった途端、失敗(=損失)が確定します。逆に、勢いを殺したシュートでも、枠内に蹴れば決まる可能性があるのです。 実際、上段を狙った場合に枠外に飛ぶ確率は17%、つまり6回に1回は外してしまいます。ゴール上段に蹴るためには勢いよくキックする必要があり、一流選手でも確実に枠内入れることは難しいのでしょう。
一方、下段に蹴る場合、枠外に飛ぶ確率は5%です。若干勢いを殺してコントロールしたシュートであれば確実に枠内を狙うことができます。 人間は少しでも損をしない可能性を選ぶ傾向があるので、失敗が確定する枠外に蹴らない(=損をしない)選択肢が魅力的に映ります。その結果、3分の2の選手が、外すリスクの小さい下段に蹴るという状況になると考えられるのです。 PKの成功率は下段より上段のほうが高くても、外すリスクを恐れて実際は下段を狙う選手が多い。このような状況こそが、損失回避バイアスによって生まれる非合理的な意思決定です。
一流のスポーツ選手であっても、認知バイアスという悪魔からなかなか逃れられないことがわかります。 ■下段は「セーブされる可能性」が高いが 「上段は外すリスクが高いのに、決定率が高い」のはどうしてでしょうか? ここでカギを握るのが「セーブ率」です。 「PKを外す確率」と「PKをセーブされる確率」を示した上の表を見てください。上段は「外す確率」が高く、「セーブされる確率」が低いことがわかります。 上段の左右のセーブされる確率は数%とめったにセーブされることはなく、上段中央の場合はなんと過去にセーブされたことは一度もありません。上段に勢いよく蹴れば、ゴールキーパーも捕れません。