自民総裁選「減税」訴える候補者なしの絶望…5年で22兆円負担増に専門家が危惧「社会保障がブラックホールのようにカネもヒトも飲み込む」
自民党総裁選や立憲民主党代表選で「もっとも議論してほしいテーマ」は何だろうか。9月8日、「TBS NEWS DIG」が最新のJNN世論調査結果を報じた。 【写真あり】満面の笑みで会場を去る河野太郎氏 議論してほしいテーマのトップは「年金、医療、介護などの社会保障対策」で19.9%。次いで「物価高対策」の19.5%、「賃上げなどの景気対策」16.1%などとなっている。「『政治とカネ』の問題など政治改革」は5位で10.7%。国民の多くは「政治とカネ」より、日々の暮らしに直結する「社会保障」や「経済」を重視しているのだ。 では、経済・社会保障の専門家は、実質的に次期総理大臣を選ぶ自民党総裁選をどう見ているのか。経済企画庁(現内閣府)出身で関東学院大学経済学部教授の島澤諭氏にきいた。 島澤教授は、Xで《コロナ前の2019年に比べて租税では+14.9兆円、社会保険料では+7.1兆円、全体では+22.1兆円》(9月5日)と、国民の負担が増えていながら政府が無策だと指摘。「社会保障がブラックホールのように、カネもヒトも飲み込んでいる」としている。 ーー今回の総裁選でも《「政治と金」だけでなく「社会保障の金」を争点とすべき》(8月31日のXより)という意見ですね。 「国民負担率と経済成長率の間にはマイナスの関係があることが知られています。国民の税や社会保険料負担を軽減できるように、歳出や社会保障給付の効率化・スリム化を実現し、経済成長を取り戻すーーそんな候補者が出てきてほしいと、個人的には思っています。 特に、社会保障に関しては、子どもの医療費の無償化や、原則9割引きの高齢者医療費というムダを見直すなどして、身の丈に合った政府の大きさを実現する候補者が、1人ぐらいいてほしいかなと思います」 ーー総裁選に出馬を表明している議員で「減税」を公約にしている人がいません(青山繁晴氏は「減税」掲げるものの、推薦20人を確保できるか不明)。 「2019年度の国の一般会計(決算額)は101兆3664億円だったものが、2024年度(当初予算)は112兆5717億円と、11兆円強も増加しています。また、税収は58兆4415億円(2019年度)から69兆6080億円(2024年度)と、やはり11兆円強増えています。 つまり、現在の政府は、税収として入ったぶんをそっくりそのまま使っているといっても過言ではない状況です。 このように税収ぶんをとにかく支出として使ってしまうなかでは、『減税に回す財源がない』という理屈になるのだろうと思います。 逆に言えば、自然増収ぶんを減税に回すのであれば、他の歳出をあきらめざるを得ず、しかし、歳出も誰かの既得権になる(もしくはなっている)わけですから、歳出の削減も政治的に難しい、ということだろうと思います」 ーーこれまでのように、赤字国債の発行という手段もあるのでは? 「インフレと金利が復活した世界では、これまでのような野放図な赤字国債の発行も難しいでしょう。結局、誰かのお金を税金として取り上げない減税より、いったん取って給付としてばらまくほうが、恩恵を受けられる国民も多く、受けもよいという考えがあるのではないかと思います」 ーーそのなかで河野太郎議員は、年末調整を廃止し、国民全員が確定申告する方式に変えたいと公約を発表し、物議を醸しています。 「個人的には、国民が政府のムダ遣いに寛容なのは、所得税や社会保険料に関して、源泉徴収の存在で、税を取られているという感覚があまりないからではないかと思っています。 逆に、消費税に対してあれほど敏感なのは、買い物のたびに取られているのが実感できるからでしょう。 いきなりの源泉徴収の廃止は難しいので、まずは会社が代わりにやってくれている年末調整を自分でおこなうことによって、税をどれだけ取られているのか、税制がどれだけ複雑かなど、納税を自分ごととして考えるいいきっかけになるのではないかと思います」 専門家が危惧するように、社会保障のカネの動きも見ておく必要があるのかも。