皇族でただ一人、京都に暮らす三笠宮家の彬子(あきこ)さまが、読売新聞社のインタビューに応じられた。ライフワークとして日本文化を伝える彬子さまは、「 古典の日 」にちなむ文化基金賞の顕彰委員会名誉総裁を務め、今年は能登半島地震で被災した2団体も受賞した。文化の継承に寄せる思いを語られた。（聞き手・編集委員　木須井麻子）

古典の日文化基金賞授賞式に合わせ、ご自身の干支（えと）「酉（とり）」にちなんだ古典柄の着物とバッグで取材に臨まれた彬子さま（京都市左京区で）＝前田尚紀撮影

　――文化基金賞に輪島ゆかりの漆芸と太鼓の団体が選ばれました。授賞に込められた思いは何ですか。 　かつて輪島の漆畑を訪れたことがあります。樹液を採るために傷つけられた木の姿は痛々しいと感じました。でも、役目を終えた木の切り株から再び若木が育っていく。漆はそうして古代から人間と生きてきたそうです。 　古典とは言葉だけでなく、工芸や芸能、祭礼も含みます。古典に触れることは、先人の思いや歩んできた道、日本を知ることにもつながります。

能登の漆芸支援

　――次世代に伝統文化を伝える団体「心游舎（しんゆうしゃ）」の総裁でもあります。活動を教えてください。 　心游舎では主に子どもたちが日本文化を体験するワークショップに取り組んでいます。今年6～9月には、能登の漆芸を支援するクラウドファンディングも実施しました。漆を題材にした新作能の制作や職人の支援を目指しています。源氏物語や和歌が能の台本である謡で後世に伝わったように、能が漆の文化を伝える装置になればと考えています。

　――伝えるために心がけていることはありますか。 　日本文化へのハードルを下げることです。古典でも最初から原文は難しいので、まず漫画を読むことを勧めています。源氏物語なら「あさきゆめみし」などに目を通し、筋を理解してから原文に触れると、登場人物が頭の中で動いてくれます。

　――古典や伝統文化と関わるきっかけは。 　最初に英国へ留学した大学生の時、日本文学研究者のドナルド・キーン先生が招かれた会に呼んでいただきました。先生は源氏物語の魅力や歴史的な意義を愛情を込めて語られたのですが、当時は自分に十分な知識がなく、うなずくことしかできなかったことが恥ずかしくて。「きちんと勉強し、伝えられるようにならなければ」と帰国後、専門を日本美術に変えました。