古典に触れ先人の思い知る…三笠宮家・彬子さまインタビュー
源氏物語はその後、原文で54帖(じょう)を読み終えました。お風呂に入りながら読み進めて5年ぐらいで。好きな場面は22帖「玉鬘(たまかずら)」で、光源氏が女君たちに正月の衣装を贈る「衣(きぬ)配り」。染色史家の吉岡幸雄さんが「源氏物語は本当に色の描写が美しいんや」とよく話されていたんですが、この場面で妻の紫の上は紅梅色、花散里は浅縹(あさはなだ)色(薄い藍色)、養女の玉鬘には山吹色と衣装の色彩が描かれます。 色から人柄を想像でき、源氏の思いも伝わってくる。色の表現の豊かさは、日本人がその文化を大切にしているからだと思います。
京の「時のかけら」
――京都で暮らして15年。まちにどのような魅力を感じますか。 平安時代から幕末まで瞬時にタイムスリップできる「時のかけら」が、あちこちに埋まっていることです。好きなのは六波羅(京都市東山区)の辺り。今は静かですが、平家の全盛期には公達(きんだち)でにぎわったでしょう。葬送の地だった鳥辺野にも近く、あの世とこの世の境界線とされた「六道の辻」もある。時空のゆがみを感じる魅力ある場所です。 京都では、今も「天皇陛下は東京にお出かけになっているだけ」と思われている方が多くいらっしゃる。私のことも「よう帰ってきはった」と迎えてくださり、ありがたいと思います。
◇ 1981年、寛仁さまの長女としてご誕生。学習院大卒業後、英オックスフォード大大学院で日本美術を研究し、女性皇族初の博士号を取得された。京都産業大日本文化研究所特別教授。著書に「最後の職人ものがたり」「京都ものがたりの道」「赤と青のガウン」など。
古典の日とは
紫式部が源氏物語について日記に記してから1000年の2008年11月1日、京都市で宣言された。茶道裏千家前家元の千玄室さんやドナルド・キーンさんらが呼びかけ、12年に国の記念日に制定。古典の日文化基金賞は文学のほか、工芸や芸能を含む伝統文化を広めようと20年に創設された。