上司のパワハラを社内の相談室に訴えたら、上司から無視されるようになった!「報復的な言動」ってパワハラになる?
「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしない、されないから関係ない、と思っていても、不意打ち的にパワハラに巻き込まれることがある。自分の身を守るためにも、ぜひ読んでおきたい1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。 ● 「報復的な差別行為」は許されない 【事例】 30代男性A。上司はAがミスをしたときにだけ会議で延々と吊し上げたり、部署の社員全員が㏄に入ったメールで「この部署にはこんな失敗をする人がいる」と明らかにAのことを指した非難を繰り返したりした。そのため、社内のパワハラ相談室に相談をしたところ、人事経由で上司に内容が伝えられたのか、Aが上司に話しかけても無視されるようになった。 【解説】 労働者が公益通報を行ったことで雇用上不利益な取扱いをすることは、「公益通報者保護法」により禁止されています。 上司に対するハラスメントのクレームは、公益通報者保護法で保護対象となる公益通報行為となりえるものです。 もし「公益通報として要件を満たす」ようであれば、それを理由とする差別的な取扱いは基本的に違法です。 他方、そのようなクレームが「公益通報として要件を満たさない場合」であっても、ハラスメントのクレームがあったことについて報復的に差別行為を行うことは、社会的に許容される余地は乏しいといえます。 ● 上司の態度が冷たいからといって、ただちにパワハラになるわけでもない? もっとも、上司による「冷遇」にもレベルがあり、労働者側に生じる不利益の程度はケース・バイ・ケースなところが多分にあります。 一般的に違法となるのは、冷遇により労働者側の職場環境が害されていることが客観的に認められるかどうかにより判断されます。 たとえ「報復的」な冷遇がされたとしても、具体的な不利益がまったくなく、職場環境が害されるほどではないという場合には、パワハラにはなりません。 たとえば、 ・上司から食事や飲みに誘われなくなった ・仕事以外での会話がされなくなった ・細かいミスの指摘が増えた という程度であれば、ただちに職場環境が悪化したということにはならないように思われます。 このような場合には、いくら「報復的」である可能性があったとしても、ただちにパワハラがあったことにはなりにくいでしょう。 ● 仕事に支障が出ている場合はパワハラになる可能性も もっともこれも程度の問題といえます。 たとえば、 ・上司がこちらからの連絡を無視したり、メールに返信しなかったりする ・業務処理に必要な情報を提供しないことが繰り返され、業務遂行に現実的な支障が生じている といった場合には、パワハラと評価される可能性はあります。 このような深刻なレベルまでコミュニケーションの拒絶がされる場合、被害者側の職場環境が現実的に悪化しているという評価は十分にありえるからです。 ● 「職場環境が悪化している」ことが明らかかどうか 今回のケースの場合は、上司との間でコミュニケーションが断絶した状態にあるようです。 しかし、もし業務上最低限必要なコミュニケーションがとれているのであれば、ただちに職場環境が害されているとはいえない(パワハラとまではいえない)と考えます。 ただし、 ・コミュニケーションの断絶によって業務に支障がある ・上長が周囲に働きかけることで被害者が職場で孤立するような工作している などの場合は、「相手の職場環境を悪化させるパワハラだ」と評価される余地があります。 また、冷遇の内容が、 ・膨大な量の残業を押しつけられるようになった ・不必要な休日勤務を指示されるようになった ・大声での叱責や人格否定のような注意が繰り返されるようになった というケースでは、客観的に見て職場環境が悪化していることは明らかです。 このようなケースでは、上司による冷遇は報復を目的としたパワハラであると評価される可能性が極めて高いといえます。 ※『それ、パワハラですよ?』では、パワハラかどうかがわかりにくい「グレーゾーン事例」を多数紹介。パワハラから身を守るために、すべての働く人が読んでおきたい1冊。 [著者]梅澤康二 弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員) 2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。
梅澤康二