職人技の祭典ホモ・ファーベルで見た、ラグジュアリーの価値の源泉
イタリア・ヴェネチアで9月、職人技の展覧会「ホモ・ファーベル」が開催。映画監督ルカ・グァダニーノと建築家ニコロ・ロスマリーニのディレクションのもと、世界70カ国400名以上の職人による約800作品がひとつの物語を描いた。 世界を動かすカルチャープレナーたち ホモ・ファーベル展はカルティエなどを傘下にもつラグジュアリー企業リシュモングループの一員である非営利のミケランジェロ財団が主催し、2年に一度ヴェネチアで開催される職人技に特化した展覧会だ。 財団エグゼクティブディレクターのアルベルト・カヴァリは、「ホモ・ファーベルは、すべての本物のラグジュアリーブランドの根底にある、職人技、独自の技術、人間がつくり上げる特注品を紹介する場」と説明する。 3度目となる今回のテーマは「人生の旅路」。財団設立者のひとり、ヨハン・ルパート(リシュモングループ会長)の娘で、同財団の副理事長を務めるハネリ・ルパートが提唱した。「世界の人々の共感を呼ぶシンプルなもので、かつ世界各地からの作品を展示するのにふさわしいテーマを選んだ」という。 ハネリは南アフリカで、アフリカのファッションブランドに特化したコンセプトショップと、高級レザーブランド「Okapi」を一から立ち上げ、経営する。ホモ・ファーベルの企画運営参画は初めてだが、自身のブランドで職人に寄り添ったものづくりを実践してきた。 欧州や日本などの一部地域に特化した前回までの展覧会と異なり、今回は各大陸から匠の技が集結。例えば、アフリカからはモロッコ、ケニア、ブルキナファソ、南アフリカなど13カ国の28の職人らが手がけた刺繍、面、木工、銀細工、彫刻作品といった多様な作品が選出された。 ■空間づくりのプロが伝える、人生と共にある工芸 芸術監督を務めたルカ・グァダニーノとニコロ・ロスマリーニ、ビジュアルデザインを担当したナイジェル・ピークの創造力と技によって、ひとつの物語に沿った没入感のある展示が実現した。『君の名前で僕を呼んで』などで知られる映画監督のグァダニーノは、8年前からインテリアデザイナーとしても活動し、建築家のロスマリーニは彼のスタジオのプロジェクトマネジャーを務める。ピークは鮮やかな色使いと幾何学モチーフが特徴的な作品を展開し、エルメスやユニクロなどをクライアントにもつアーティストだ。 彼らの役割はキュレーションではなく空間づくり。什器から装飾品まですべてをデザインした。テーマである「人生の旅路」に紐づいた11の展示室には「誕生」から「死後」に至るまでの段階が副題として与えられ、それぞれに関連した作品が置かれた。 「子ども時代」室には、動物のオブジェやミニチュア模型、来場者が遊べるゲームなど多彩な遊び道具が一堂に。一方、「祝賀」室には、天板が鏡になった巨大な食卓の上に器、カトラリー、食べ物を題材にした作品が並べられた。 手づくりの一つひとつの完成度の高さに圧倒されると同時に、かつては職人技と工芸に支えられていた私たちの生活がいかに工業製品にあふれてしまっているかを再認識させられる。「この展示を通じて自分の旅路を歩むとともに、職人技の世界をより身近に感じてほしい」とロスマリーニ。