「容疑をほのめかす供述をしている」の意味とは?今すぐ誰かに話したくなる事件報道の裏側
誰々が逮捕された、告訴した、起訴された――普段何気なく耳にしている事件ニュースですが、最近ある表現が増えてきています。「〇〇容疑者は容疑をほのめかす供述をしています」。皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。「〇〇容疑者は容疑を認めています」とか「容疑を否認しています」という言い方に比べて、何とも微妙な表現です。では、その意味とは? ――『産経新聞』で長らく事件報道を担当した三枝玄太郎氏が2024年4月に刊行した『事件報道の裏側』から抜粋・編集してお届けします。
■「容疑をほのめかす供述」とは? 「〇〇容疑者は容疑を認めています」とか「〇〇容疑者は容疑を否認しています」という言い回しをニュースで耳にする方も多いと思います。これは文字通り、容疑を認めているか、認めずに否定していることを指しますが、では次のこれはいかがでしょう? 「〇〇容疑者は容疑をほのめかす供述をしています」。認めているのか、いないのか、ちょっとはっきりしませんよね。これは「供述調書」の存在がカギになっています。
あなたが仮に犯罪の嫌疑をかけられて、警察に逮捕されてしまったとしましょう。 「おい、お前、やったのか正直に言え」と刑事はあなたを責め立てます。実は会社の上層部が関与しているとあなたは知っているのですが、それをしゃべってしまったら解雇されてしまうかもしれない。しかし、目の前にいる刑事はさっきからバンバンと机を叩いて追及してくるし、証拠も握っているようだ。どうしよう、もう楽になりたい……。 あなたは一計を案じます。「そうだ、ここは認めてしまって、あとで『本当はこういうことでした』と言い訳すればいいや」。
「やりました。ええ、私がやりました」 「じゃあ、誰に頼まれてやったんだ」 「いや、それはわかりませんねえ」 「詳しく話せ」 いやはや、時間を稼ぐつもりが、とんだ藪蛇になったかもしれません。警察からすると、単に「やりました」と言われただけでは、自白をしたことにはなりません。 こういう場合、対外的には「容疑をほのめかす供述」と発表することになります。 ■調書が巻けない! 別のケースもあります。 暴力団捜査を担当している刑事がよくこんなことを回想します。