心地よく音を楽しめる空間づくりを 目に見えない音を数値化し科学的にデザイン
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年12月16日号には環境スペース 設計士・環境計量士 杉山操さんが登場した。 【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら * * * 「時間帯を気にせずピアノを練習したい」「オーディオルームで周囲に気兼ねなく音楽を堪能したい」。そうした顧客の希望にこたえるため、遮音性能と快適さを兼ね備えた音響空間を設計する。 設計に先立ち、音源の大きさを測る。同じ楽器でも演奏する人によって音量の大小は異なる。オーディオから流れる曲をどの程度の音量で聞くかも人それぞれだ。 住環境にも気を配る。戸建てかマンションか、外の騒音はどの程度か。計測した数値をもとに個々のニーズに合わせた遮音性能を取り入れながら、図面に落とし込んでいく。 「目に見えない音を数値化することで必要十分な遮音設計をなるべく低コストで施すことができます。感覚的で主観的な音の大きさや高低を科学的な根拠で裏付けることが大切だと考えています」 採用しているのは、部屋を二重構造にする「BOX in BOX」と呼ばれる工法だ。部屋と部屋の間に隙間をつくることで、中の部屋の音を外に伝わりにくくする。二つの部屋の床と天井はそれぞれ振動を緩和する防振材でつなぐ。 遮音性能を高めようとすると壁や床、天井は重く、厚くする必要がある。ただ、重すぎると建物に過大な負荷がかかる。厚くすればするほど部屋は狭くなり、圧迫感が生じてしまう。さまざまな制約の中でバランスを考慮しながら、構造的な工夫を凝らす。 音響を整えるのに大切なのが天井や壁の形状だ。平行に向かい合った天井と床、壁と壁の間では、音が何度も反射を繰り返すため、音が重複して濁った音になったり、聞きづらかったりする音響障害を引き起こす。そこで壁面をギザギザにしたり、斜めにしたりする技巧で音のエネルギーが均一になるようにコントロールする。 妥協せずに設計に打ち込めるのは、自身も音楽に深い愛着があるからだ。音楽鑑賞が趣味で、ライブにも精力的に出かける。「生演奏に没頭したい一方で室内の音響性能が気になってしまい、音楽に集中できないこともありますけどね」 音楽を愛する人たちの情熱がわかるからこそ、できることはすべてやる。「最終的にはその部屋を使う人が気兼ねなく、心地よく音を楽しんでもらえることが一番です」 (ライター・浴野朝香) ※AERA 2024年12月16日号
浴野朝香