演技未経験の“問題児”たちが、映画の主人公になる。
カンヌ「ある視点」大賞、『最悪な子どもたち』監督インタビュー
キャスティングディレクターや演技コーチとして多くの若者と接してきたリーズ・アコカとロマーヌ・ゲレからなる新進監督コンビの長編デビュー作『最悪な子どもたち』。北フランスを舞台に、過酷な境遇に置かれた“問題児”を配役した映画撮影の行方を演じたのは、実際にロケ地周辺の公開オーディションで選ばれた4人の子どもたちだ。観る者にフィクションと現実を行き来させる物語は、2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でグランプリを、第15回アングレーム映画祭で最優秀作品賞受賞した。現在、産休中のリーズ・アコカと共に監督を手がけたロマーヌ・ゲレが、映画制作と貧困地域という接点の少ない二つの世界を交流させた本作について語ってくれた。 【記事中の画像をすべて見る】
──リーズ・アコカさんと共同監督するようになったのは、どんなきっかけからだったのでしょうか。 リーズと出会ったのは本当に偶然でした。彼女がキャスティング・ディレクターを務めていた長編映画で、私は初めてキャスティングにアシスタントとして参加したんです。フランス北部ノール県にある、バランシエンヌの子どもを公開オーディションで見つけることが目標でしたが、結果、私たちがとても気に入った二人はその映画には起用されませんでした。それなら、二人と一緒に私たちで作ればいいということで、短編映画「シャス・ロワイヤル」を監督することになりました。二人で発見した才能でしたし、シナリオを書いてから完成するまで約3年かかったこともあり、一緒に冒険をしているような感覚でした。 ──チームで監督をする面白み、強みについてどのように考えていますか? その質問は難しいですね。なぜなら、私は一人で監督をした経験がないので、相対的に答えることはできませんが、個人的に、悩みをシェアできるというのがありがたいと考えています。監督を一人でしている方たちが、撮影現場でモニターの前で一人向き合っているのを見ても、私は全然羨ましいと思えなくて。迷いますし、弱気な人間なので、誰かにいてほしいじゃないですか。二人が合意すれば決断も早くなりますし、リーズには私にはないものがあり、私は彼女にないものを持っているので、お互い足りないところを補完しあっている豊かな関係性ではあると思います。 ──前作「シャス・ロワイヤル」では、4000人の子どもたちを公開オーディションし、今回も1年かけてランス北部の学校、児童養護施設、地域センター、青少年更生施設などをまわったそうですね。演技の才能を持つ子どもを見つけ出す秘訣はあるのでしょうか? 公開オーディションで新たなタレントを見抜くことは、キャスティング・ディレクターの才能であり、魔法的な部分でもあります。誰にでも与えられているものではない、天性の感性を持っている子は、キャスティング・ディレクターの目から見れば明らかであるとも思います。また、オーディションでは撮影テストをしますが、カメラの存在や自分のことも忘れて、私たちのリクエストに自由に反応する子はいるんですね。そういう子には、若干反抗心の強い傾向がある気がします。例えば、「稽古をしてみてください」と頼んでも「稽古なんてどうでもいい」という態度だったり、やや斜に構えた態度だったりする子の方がいい演技をすることもあります。皮肉なのですが、「この役は絶対にやりたい!」という思いが強い子は、過剰な演技になってしまうものなので。 ──どのように、演技未経験の子どもたちを指導するのか気になります。 私たちのやり方は、他の監督に比べて、稽古にかなり長い時間を費やすんです。プロの俳優に求めることと全く一緒で、セリフも動線もコリオグラフィーのように完璧に暗記してもらいます。そうやって枠組みさえしっかり決めてしまえば、彼らはその中で自分の自由を見つけていくものなので。想定外のことは起こらない、という安心感を与えることで、伸び伸びと学んだことを発揮できるのだと思います。 ──プロの俳優と求めることが同じだとすると、演技未経験の子どもの役者たちをあえて使うその理由は、子どもたちに生命力や可能性を感じているからですか? おっしゃる通りで、子どもたちが持っている生命力に惹かれるという点がひとつあります。10代の年頃は、人生の過渡期ですよね。幼い子どもでもなく大人でもない独特のユーモアがある。たくさんの悩み、迷い、怒りを日々抱えている世代だと思いますし、私自身もまだそういう時期に足を半分突っ込んでいるような感覚があるので、子どもの世界を近しいものとして感じるのかもしれません。また、今も新たなプロジェクトが動いていますが、子ども一緒に仕事をするということは、今の社会と接することだとも思っています。彼らがどういうふうに物事を見ていて、何に興味があるのか、どんな話し方をするのか。自分たちが年を重ねていくうえでも現代を知るために、若者たちに関心を持つことは大事ですよね。 ──監督をする以前にキャスティングに参加した作品で公開オーディションをする際、その方法に疑問に思っていたことはありましたか? オーディションの仕方も監督によりますし、それぞれのキャスティング・ディレクターが自分たちで一番ふさわしい方法を見つけていくものではありますが、撮影している間だけではなく、長期的に子どもたちを守り、大切にするという心構えは必要だと感じていました。だから、自分たちの映画を撮る際は、どうすれば子どもたちが傷つかないでいられるか、改良できるところはないかを熟考しました。例え子どもたちがオーディションで選ばれていたとしても、演出される場では、監督をはじめとする一般的に権力を持っている側の大人の支配下にいる状況になってしまいがちです。それは、ちょっと違うのではないかと思っていました。なので、オーディションのときから必要なだけ長い対話をし、心配や悩み事があったら質問ができるような関係を構築しました。私たちが求めていたのは、彼らが楽しんで演じることだったので、その環境づくりを意識しました。