演技未経験の“問題児”たちが、映画の主人公になる。
──長期的なケアとしては、具体的にどのような取り組みがあるのでしょうか? 子どもたちは、撮影が終わると、あまりにも濃厚な時間がいきなり幕を閉じるので、落ち込んだり、鬱っぽくなったりする傾向があります。なので、撮影が済んだらそこでおしまいという態度ではなく、彼らのその後の人生を見守るという姿勢が大事だなと。ただ、撮影に協力してくれた貧困地区が抱えている問題を解決することは、私たち映画監督にはできません。私たちも万能ではないので。それでも、エキストラとして参加してもらう方々には、トップダウン型の態度ではなく、「こういう問題を描きたいので、ご協力いただけますか」と、ネガティブに捉えられる描写がある可能性も含めて丁寧に説明します。また、映画が完成したときは、地域の人たち全員を招待して上映会をしました。そうやって、一緒に作っていくことで、参加した地域の人たちも作品を誇りに思ってくれるようになるのではないかと思うんです。今回、 1番長く一緒に仕事をした子どもたちに関しては、今後も演技を続ける意志を示してくれた子にはエージェントを探すお手伝いをしましたし、セリフの覚え方、作品選定のアドバイスといったサポートは続けています。もう全く手はかかりませんが、リリ役の現在17歳のマロリー・ワネックは、本作を通じて姉妹のような関係になりました。パリに出てきた彼女は、既に映画に3、4本出演しています。 ──素晴らしいですね。本作に登場するガブリエルの役柄が、果たして作品が面白く、芸術的になるのであれば、役者に無理を言ってもいいのだろうかという映画監督の権力に対する疑念を象徴していますね。彼はお二人が出会ってきた、いろんな映画監督が合わさったようなキャラクターなのでしょうか? ある意味、そうですね。映画監督ガブリエルの人物造形は、今回、最も難しかったですね。子どもたちの演じるキャラクターは、公開オーディションで出会った子たちからインスパイアされ作り上げていきましたが、ガブリエルに関しては、私たちが知っていて、イメージする監督の持つ全ての要素を表現したかったんです。だからといって、彼を批判する態度ではなく、その矛先は私たち自身にも向けられているんですね。私たちも、ガブリエルの中に自分自身の姿を見出していました。 ──情熱的で、演者にも映画にも深い愛情を持つキャラクターとも言えます。 彼は悪人ではありませんし、複雑な思いを抱えています。監督としての意志や原動力が子どもたちをコントロールする場面がありますが、それは、私たち大人が子どもを演出する上で、少なからず避けられないステップなんですよね。彼の役を通して私たちが描きたかったのは、映画監督という存在への批判ではなく、人間にカタルシスをもたらす演技に対するリスペクトや愛情だと私は考えています。 ──「なぜ映画というジャンルが、過酷な環境で生きる子どもたちに惹かれカメラを向けようとするのか?」。この問いかけからこの映画がスタートしたそうですが、撮り終えて、その答えは出ましたか? このテーマの中に既に答えはあったと思っています。ある特定の貧困地域で起きていることを社会的、経済的に語ろうとするとき、その場所が監督のよく知る地元ではない場合は、その環境で日々生きている人たちを起用するしかありません。倫理的、政治的にも、貧困地区の人々の役を発言権を享受している役者が演じるのは違うのではないか、と私は考えています。この映画も、そういう不平等な場所で生きている子どもたちに少し光を当て、発言権を渡す、そういう意味合いがあるんです。 ──今後も、子どもたちの世界を描くような作品を作っていくのでしょうか? 監督としてジャンルにとらわれることなく自由にやっていくつもりですが、まだまだ子どもの世界を語り尽くせたとは思っていないので、これからも彼らと一緒にやっていくつもりです。次回作として、8歳から12歳というさらに若い年齢を対象にした、夏の林間学校の物語を準備しています。楽しみにしていてください。 ―――――――――― 『最悪な子どもたち』 ある夏、フランス北部の荒れた地区を舞台にした映画が企画され、地元の少年少女を集めた公開オーディションが開かれる。選ばれたのは、異性との噂が絶えないリリ、怒りをコントロールできないライアン、心を閉ざしたマイリス、そして出所したばかりのジェシーという4人のティーンエイジャーたち。出来上がったシナリオは、彼ら自身をモデルにした物語だった。波乱に満ちた撮影が始まり、予想外の展開が訪れるのだが── 。 出演_マロリー・ワネック、ティメオ・マオー、ヨハン・ヘルデンベルグ、ロイック・ペッシュ、メリーナ・ファンデルプランケ、レミ・カミュ 監督_リーズ・アコカ、ロマーヌ・ゲレ 脚本_ リーズ・アコカ、ロマーヌ・ゲレ、エレオノール・ギュレー 撮影_エリック・デュモン 美術_ロラン・ボード 編集_アルベルティーヌ・ラステラ 配給_マジック・アワー 2022/フランス/カラー/DCP/2.35:1/100分 ©Eric DUMONT - Les Films Velvet 12⽉9⽇(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開。 ―――――――――― ●ロマーヌ・ゲレ ソルボンヌ大学で映画を学び、助監督、キャスティング・アシスタント、撮影スタッフとして映画業界に入る。大学で心理学を、演劇スタジオで演技を学び、子どものキャスティングと演技コーチを務めるリーズ・アコカと出会い、2015年に共同で短編「シャス・ロワイヤル(Chasse Royale)」を共に監督する。同作は2016年のカンヌ国際映画祭 監督週間にてイリー賞を受賞したほか、様々な映画祭で上映され、翌年のセザール賞短編部門にもノミネートされた。その後、短編ドキュメンタリー「Allez garçon!」(2018)、7本のエピソード10本からなるWebシリーズ「Tu préfères」(2020)を二人で手がける。 Text&Edit_Tomoko Ogawa
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