月組トップスター・月城かなとが演じる死神に引き込まれる作品、「DEATH TAKES A HOLIDAY」
月組公演「DEATH TAKES A HOLIDAY」は、ミュージカルの楽しさを存分に堪能できる、見応えたっぷりの作品だ。2011年にオフ・ブロードウェイで初演され、タカラヅカでの上演においては潤色・演出を生田大和が手がける。 モーリー・イェストンのちょっぴり物悲しい感じの楽曲が、独特な雰囲気を醸し出す。主人公だけではなく様々な登場人物に楽曲があり、聴かせどころがふんだんにあるのも嬉しい。 【写真を見る】海乃美月 ストーリーにおいては第一次世界大戦が重要な出来事として前提にある。プラスしてスペイン風邪のことも盛り込まれているのが、コロナ禍を思い出させ、現代風だ。たくさんの死者が出たから「死神」も忙しくて仕方がなかった、少しは休みが欲しい...というわけだ。こうして、人間の姿で「休暇」を取りにきた死神が、人間の女性であるグラツィアに恋をしてしまうところから物語は始まる。 死神が人間に恋をしてしてしまうという設定はミュージカル「エリザベート」に似ている。だが、「死神を主人公にした話をアメリカで作るとこうなるのか」という底抜けの明るさが、前半にはある。 その「死神」を演じるのが、月組トップスターの月城かなとだ。いきなり見目麗しいロシアの皇子ニコライ・サーキの姿を借りて登場してしまうところも月城ならではの見せ場だが、人間の生活のことを何もわかっていない死神と周りの人たちとの若干ずれた会話、その中でのおとぼけぶりでコメディセンスを発揮する。 だが、一転して後半では「人間」を愛してしまったが故に苦悶する。死神に愛されてしまうグラツィア(海乃美月)は、ただのお嬢様ではない、強い意志と鋭敏な感性を持つ「選ばれし」女性であることが伝わってくる。グラツィアの父・ヴィットリオ(風間柚乃)は、前半は死神と家族の板挟みになって混乱する姿をユーモラスにみせるが、後半は父親としての揺るぎない愛を滲ませる。 ダリオ(英真なおき)とエバンジェリーナ(彩みちる)の深い絆は「愛に年は関係ない」ということを教えてくれる存在だ。さらに、アリスを演じる白河りりが、一見、遊んでいる女性のようでいて実はそれだけではない、というキャラクターで新境地を見せる。 この作品の途中までのメインテーマは「生きることの素晴らしさ」のようだ。それはとても胸に迫るものがあり、これから嫌なことがあった時はこの作品のことを思い出して、朝が迎えられることに感謝しよう!と思うほどだった。 また、この作品のもう一つのテーマは「愛こそが全て」である。死神の「休暇」には終わりがあり、いずれ元に戻らなくてはならない。そうなった場合、考えうる結末は2つだ。「死神がグラツィアを生かす。そして自分はひとりで元の世界に戻る」のか? あるいは「グラツィアが死神について行く。つまりグラツィアが「死」を選ぶ」のか? 月城かなと演じる死神と海乃美月演じるグラツィアの二人がどちらの選択をするのかはギリギリまでわからない。果たしてどんな結末を迎えるか?それは見てのお楽しみ、である。 文=中本千晶
HOMINIS