2024年のアメリカ大統領選と、過熱するメディア競争の行方
清原 聖子(明治大学 情報コミュニケーション学部 教授) 4年に1度のアメリカ大統領選挙戦が始まっています。大統領選挙は大きく分けて2段階になります。同一政党内の候補者選びを行う予備選挙と、政党の公認候補者同士の対決の本選挙に分かれています。11月5日の本選挙の投票日のかなり前から、メディアではすでに激しい報道合戦が進行中。アメリカの次のリーダーが誰になるかは、日本の今後にも密接に関係してくることです。しかし大統領選を「メディアのあり方」という視点で捉えてみると、私たち、市民一人ひとりが考えるべきことも数多く見えてくるのです。
◇日本で馴染み深いCNNより多くの視聴者を集めるFOXニュース アメリカの大統領選挙が関心を集めています。話題の中心はもちろん、民主党で現職のバイデン大統領と、共和党のトランプ前大統領による2020年以来の「リマッチ」です。 今年3月に私が首都ワシントンに滞在した時期は、「スーパー・チューズデー」の前後でした。「スーパー・チューズデー」には、多くの州で同日に予備選挙が行われます。二大政党にとって政党の候補者選びの山場になるので、メディアの注目度も高くなります。この時期すでに11月の本選挙を見越して、バイデンVSトランプの報道合戦が激しく行われていました。「バイデンが負けても困るが、勝ったとしても、2021年の連邦議事堂襲撃事件のようなことがまた起こるのではないか」という不安も聞かれます。日本でも「もしトラ」などという言葉が報道されていますね。ワシントンで話を聞いた民主党支持者の中には、もはや大統領選挙自体を恐れている人たちもいました。今後は、本選挙に向けてさらにメディアの報道は加熱していくでしょう。 私が近年とくに関心を持っているのが、アメリカメディアの大統領選における報道姿勢です。今回の選挙には、移民問題や中絶禁止の是非、経済問題などいくつもの大きな争点があります。各メディアがどの観点からそれらの問題を報道しニュースとして伝えていくのか、メディアのフレーミングに注目しています。 アメリカではケーブルテレビニュース専門チャンネルのFOXニュースは、保守派に好まれ、共和党支持者の多くが視聴しています。リベラル派がよく見るニュース専門チャンネルのCNNやMSNBCの二つを足しても、FOXニュースの視聴者数には敵わないというデータもあります。日本のメディアが「現地メディアによりますと」と紹介するとき、引用されるのはCNNや有力紙のことが多いかもしれませんが、アメリカではFOXニュースの視聴者数が非常に多い点をもっと注目するべきではないかと私は思っています。 FOXニュースは長年保守派から繰り広げられたリベラルメディアに対する批判を意識して1996年に開始されました。FOXニュースの視聴者の多くは白人労働者階級で共和党支持者です。FOXニュースの番組の特徴としては、ポピュラーカルチャーや娯楽的要素を盛り込んだソフトニュースと呼ばれるタイプの報道番組に人気があります。たとえば、コメディアンが司会を務める「サタデーナイトライブ」や社会問題をパロディ化する番組の「ガットフェルド!」などがあります。FOXニュースの開始時から長年プライムタイムの番組のホストであるショーン・ハニティは、最も影響力のある保守派の声を代表すると言われています。番組を見ていると、番組の合間のCMでもカントリー音楽を流したり、カウボーイが登場したり、古き良きアメリカを想起させられます。 私がよく行くワシントンにはリベラルな人が多く、大学の研究者などと話していても、「FOXニュースを見ています」と言うと怪訝な顔をされます。しかし増え続ける同局の視聴者数を考えると、これを無視して大統領選を語ることはできないと考えています。