2024年のアメリカ大統領選と、過熱するメディア競争の行方
◇アメリカの高まるメディア競争とメディアの分極化 FOXニュースが実際にどんな報道表現をしているのかを見てみましょう。 「スーパー・チューズデー」の頃のFOXニュースの報道のトーンについてお話します。2024年大統領選挙の争点として重要な移民政策ですが、FOXニュースは、移民と犯罪に焦点を当てていて、国境管理をめぐり移民政策でバイデンが失敗したという見方を強調していました。 もう一つの例は、「スーパー・チューズデー」後に共和党の予備選からの撤退を表明したヘイリー候補についての報道です。ヘイリー候補は首都ワシントンの予備選ではトランプ候補に勝利しました。しかしこの頃、FOXニュースの番組では、ヘイリー候補に撤退を迫るかのようなコメントが見られました。ヘイリー支持者には比較的大卒者が多く、彼女は共和党内でも穏健派だとされていました。対してトランプ支持者には白人の労働者階級が多く、FOXニュースの視聴者と重なります。そうした視聴者を強く意識した報道姿勢について、アメリカのメディア研究者の中には「FOXニュースはもはやトランプニュースだ」と揶揄する声もあります。 アメリカにおけるメディアの偏向はFOXニュースだけの話ではありません。FOXニュースと同じく1996年に開局したMSNBCは反対にリベラル層に焦点を当てた報道をしています。保守派は保守系のメディアを好み、リベラル派はリベラル系のメディアを好むというわけです。アメリカではケーブルテレビや衛星放送に加入する世帯が多くなり、メディア間の競争が激しくなりました。そこで勝ち続けるマーケティング戦略として視聴者にわかりやすい党派的に明確な違いを出していく方法がとられてきたと言えるでしょう。党派的なメディアは視聴者が選挙をどう理解し解釈するかに影響を与えるという研究者の指摘もあります。実際、ピューリサーチセンターの調査によれば、2020年の大統領選挙の際には、「郵便投票は不正選挙になる」と考えていた人の多くは、FOXニュースを日頃情報源にしていた人たちに多く、MSNBCやCNNを情報源にしていた人にはそう考えている人はほとんどいませんでした。したがって、党派的な報道による2024年の大統領選挙への影響を私は懸念しています。