「凱旋門賞は小兵」を統計学的に示す【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」 今年も日本競馬界の悲願達成を目指す10月第1週がやってきた。凱旋門賞には矢作厩舎からシンエンペラーが挑む。アルリファーはJ・オブライエン厩舎だが、松島オーナーが武豊を起用する。 昨年、スルーセブンシーズが4着に健闘。データ的な切り口を好むファンの間では”確信”に変わったのだろう。とみに「凱旋門賞は小兵」説が注目を集めている。 2年連続2着、内容的には1回目の遠征で実質勝っていたとも評価できるオルフェーヴルは460キロくらい。2010年2着ナカヤマフェスタも同年春の宝塚記念優勝時は466キロだった。日本調教馬で初の連対エルコンドルパサーは前年ジャパンCで472キロ。これらは小兵とまで言えるか微妙な線だが、500キロを超える馬の遠征実績と比べると好対照に映る。 19年ブラストワンピースは540キロ前後の馬格で11着。14年ゴールドシップもおおむね500キロは超えていて14着だった。
凱旋門賞が現実的な目標となった1999年エルコンドルパサー(2着)以降の日本からの遠征馬29頭(12年にオルフェーヴルの同行として出走したアヴェンティーノ=17着を除く)の入線着順と、推定馬体重を散布図としてみると、そこそこ強めの正の相関があるように見える。計算してみると相関係数はρ(ろー)=0・545。データ数が29の場合、この値が0・471より大きいと、1%という厳しめの有意水準でも2つの軸(この場合は馬体重と入線着順)のデータの間に関連があると認められる。 散布図の中心に引いたのは「回帰直線」。2つのデータの関連が直線的な変化だと仮定したときに、おおむね従っていると考えられる直線だ。厳密さに(かなり)目をつぶって逆の言い方をすれば、実際に観察されたデータは、この直線から上下左右にいくらか誤差を持って表出しているというイメージだ。 エルコンドルパサー以降、約四半世紀の日本からの挑戦の歴史がフランスに送り出してきた遠征馬の数は、すでに馬体重データに関して統計的に十分なサイズ(「nが十分に大きい」と言ったりする)に達していた。これひとつが決定打とまでは言えないが、少なくとも日本からの遠征馬に関しては「凱旋門賞は小兵」のセオリーが統計学的に示されたと言える。
中日スポーツ