巨匠の手で見事に生まれ変わった『レ・ミゼラブル』。「ベルモンド死す」のニュースにショックを受けながらベルモンドのジャン・バルジャンを観た
◆名優であり正統派 「これ、どこが『レミゼ』なの??全然違う映画じゃん!!」 と思ったが、映画自体は面白いので、視聴を止めることはできなかった。 映画に戻るとチャンピオンとなったアンリ・フォルタンはボクサーをやめ、引越し運送業を始める。彼が元チャンピオンだと気づく人は多く、時々彼に話しかけ、尊敬のまなざしを向けるが、彼は過去の栄光に縛られる風でもなく、今の仕事の自分を楽しんでいるように見える。 こんなところが実に格好いい! また劇中劇としてのジャン・バルジャンや、アンリの父親もベルモンドが演じており、言われなければ気が付かないほどに違う。今まで彼が演じた不良で小粋なナイスガイとは違うが、名優であり正統派だということを堪能できる作品だ。
◆クロード・ルルーシュの手腕 物語は進んで第2次世界大戦が勃発。美しいオペラ歌手と才能あるジャーナリストの夫婦、そしてまだ幼い娘の3人家族の引っ越しをアンリたちが手伝うのだが、「あの家族はユダヤ人」と警察に密告した近隣マダムのせいで、この家族は夜逃げすることに。ナチによるホロコーストが始まっていたのだ。 家具などもおいたまま、遠くの駅まで移動したいという家族をトラックに匿って輸送するのがアンリ・フォルタン。 この家族との関わりがアンリの運命を変えることになり、やっと、『レ・ミゼラブル』との関係性が現れる。逃亡中、文字の読めないアンリに、一家の主人アンドレ・ジマンが、『レ・ミゼラブル』を読み聞かせるのである。成程、こんなふうにして「劇中劇」として織り込むのは秀逸! 原作のジャン・バルジャンとコゼットのストーリーは、時にアンリの頭の中の映像として映像化され、それを見る私たちの頭の中で「アンリ=ジャン・バルジャン」として納得させられていく。「では、ジマン夫妻の娘、サロメがコゼットになるのだろうか?」等と連想が膨らんで行くのだが、原作の現代小説なら許されない破綻が、新しい物語ではすべてつじつまが合い納得させられていくので、クロード・ルルーシュの手腕に感嘆するほかはない。
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