旅を分解して味わい尽くす――仲野太賀×上出遼平×阿部裕介が放つ“かつてない”旅行記「すごくシンプルで良い遊び」
■忘れられない「アップルモモ」 ――上出さんの著書はいつも食リポが抜群なのですが、今回もまた美味しさの想像をかき立てられました。あれは後で思い出しながら書くのですか? 上出:その日の夜にメモってますが、録音を聴き返すと記憶と結びつきやすいんです。なので、それを思い出しながら書いてますね。 ――この旅で印象深いのは、何と言っても「アップルモモ」ですよね。 上出:そもそもネパールのご飯が全部うまかったんですよ。アップルモモはその中でも突出した瞬間だったんで、あれは興奮したね。 仲野:いや本当に美味しかったですね! 作ってくれた女性のパン職人の方との出会いのシチュエーションも良かったので、忘れられない味です。 阿部:標高4,000m近くの岩肌のそばにあるベーカリーという普通じゃない状況で、まず美味しさが増すんですよね。 仲野:外から唯一聞こえる音が、経文を唱えるおじさんの声で… 阿部:厨房ではコンコンコンってりんごを切る音がして…不思議な世界だよね。旅をしている時はそれが当たり前のように見る景色ではあるんですけど、それをこうやってまとめて見直すと、「これってすごい光景なんだな」と気づけるんです。 上出:歩き旅なんで、突然景色が変わるってことはないんです。変化が緩やかで気づかないんですけど、後で写真とかを見ると「とんでもないとこにいたな!」と思って、それも面白いです。
――途中からガイド役を務めてくれたランタン谷の少年・パサンくんとの出会いも大きかったですよね。 仲野:阿部ちゃん、パサンに本持っていくんでしょ? 阿部:はい。旅でお世話になった人たちに完成した本を渡すのは使命だと思ってるので。みんなどういうふうに見てくれるのか、楽しみです。 上出:これは喜んでくれるんじゃないかな。 阿部:ランタン谷がここまで収まっている本は初めてだと思います。『地球の歩き方』でも、半ページに「世界一美しい谷」と書いてあるだけなので。だからある意味、急に来た外国人が三宿(東京・世田谷区)の本を作ったようなもんなんです。 ――パサンくんが案内してくれた、道を外れた古い村で出会ったおじいさんも、大きな出会いですよね。 阿部:あの人にも本を渡したいですね。僕がランタン谷を歩いたのは4回目なんですけど、パサンとの出会いがあって、上出さんがその歴史についておじいさんにインタビューしてくれたので、今回初めて知ったことがたくさんあったんです。あそこまで情報を掘ることはできなかったので、すごく勉強になりました。 上出:奇跡的だよね。普通に歩いてたらたどり着けない場所でしたから。でも、録音を聴き直してたら、パサンとの出会いもその2~3軒前からつながってたんですよ。彼の名前は実は出会う前から出ていて、僕らは彼らの血筋をたどっていたんです。 阿部:一つの集落に5つか6つぐらい宿があるので、どこに泊まるかを自分たちでセレクトするんですよ。そこに泊まったら、「次の宿はうちの弟がやってるところに泊まってね」と勧めてくれる。だから、最初に選んだ宿が違う場所だったら、パサンと会ってない可能性が高いんです。それって、僕が上出さんと知り合ってなかったら太賀くんとニューヨークで遊んでないし、この旅もなかったということと一緒なんですよね。旅は人生の縮図みたいに感じます。