「we+」が発見した「テキスタイルの現在地」【NUNO 須藤玲子の見果てぬ布の旅 vol.4】
we+から見た「須藤玲子」像
「途絶えそうな素材や技術を発掘したり、新たな視点で価値を見いだすことにも長けている。たとえば蚕が最初に吐き出す糸である『きびそ』なんてまさにそう。現代では織り糸として使われなくなっていた『きびそ』に、須藤さんが光を当てた。素材を徹底的にリサーチするし、工場のポテンシャルを最大限に活かすべく、そこもリサーチを重ねる。だからものすごくロジカルだし、テクニカル。さまざまな要素を計算し尽くして、布に着地させていく。『素材からものをつくっていく』ことにものづくりの立脚点を見いだす姿勢は、我々に通じるものがあるというか、大先輩です」(安藤氏)。
もう一つの点が、「デザイナーであり、会社を運営する経営者でもある」点にも、ふたりの関心はおよぶ。「僕たちも同じ立場ですから、クリエイティブと経営という異なる側面を両立させる大変さ、ものづくりに純粋に没頭する姿勢を続ける難しさはよくわかります。それでも須藤さんは、クリエイティブに軸足を置く。ここがぶれない強さがあるからこそ、ずっと第一線で活躍されているのだと思います」(林氏)。
さらにふたりが強調するのが、須藤の「現場主義」な点だ。日本各地にちらばる産地に精力的に足を運び、職人とともにゴールを目指す。日本が誇るべき布づくりは、基盤となる工場があってこそ。NUNOらしい布をつくり続けるためにも、共に継続できる道を探り続ける。そして布という素材に大きな敬意をはらい、大切につくっている。サステナビリティがうたわれはじめるずっと前、それこそ1983年の創業当初から、循環する布づくりに取り組んでいるのもそのあらわれだ。
糸に焦点を当てることで布の特性を見いだす旅をへたふたりは、今後どのように布と向き合おうと考えているのだろうか。「布づくりの現場を間近で見ることができて、現代に生きる我々が布と対峙したらなにができるか、熟考する時間となりました。素材そのものに向き合えたことも大きい。現場のひとと一緒に、自分たちで手を動かして、布をつくってみたいです。布を媒介にして、過去と未来がつながるのではという期待もあります」(安藤氏)。「古代布に興味があります。すでに縄文時代には日本にも布が存在したと言われていて、たとえば平織りは5000年前から変わらない。ここまで変わらなかったものに、自分たちはどうアプローチできるのか。機会があれば、すべてのエネルギーを傾けて挑んでみたい」(林氏)。
ルーペで糸をのぞき込み、見えているようで見えていなかった糸の世界に入り込み、須藤がつくり出すテキスタイルへの理解を深めていった林氏と安藤氏。ふたりが手がける布を見るそのときが、待ち遠しい。