両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.26
まさに「地獄」の様相を呈している――2021年に発生した軍部によるクーデター以降、ミャンマーでは軍事政権の国軍(ミャンマー軍)と、軍事組織としてのKNLAを有するKNU(カレン民族同盟)やカチン州、シャン州、カヤ州などの武装勢力が組織した反政府(反軍事政権)の連合的武装組織PDFの戦闘が激化している。今年に入り、軍事政権はついに18歳以上の国民を徴兵するとまで発表した。 2024年現在、ミャンマーに向けられる視線は「反民主的な軍事政権VS民主化を求めるレジスタンス的武装勢力」の構図一色に塗りつぶされているが、はたしてクーデターが発生する前のミャンマー、そのディテールに目を向けていた者がどれほどいただろうか。 本連載は、今では顧みられることもなくなったいくつかの出来事と、ふたつの腕で身体を引きずるように歩くカレン族の牧師を支えた日本人武道家を紹介するささやかな記録である。
東南アジアの難民
ど根性男の本間にジョンソンは次々とアパートを任せた。半年も経つと、本間はアパート5棟、計60戸もの管理責任者となっていた。 やがて東南アジアの難民家族がそのアパートへ引っ越して来るようになった。ベトナム、ラオス、タイそしてラオスの山岳部族のモン族等の難民である。難民に住居を提供すると、州政府から補助金が出ることになったので、アパートのオーナー達は積極的に難民を受け入れたのだ。 東南アジア難民が移り住むようになってから、彼らのパワーに圧倒されたヒスパニック系の住民たちは次第に、本間のアパートから追い出され、後には東南アジアの難民達の親戚、友人、知人家族が次から次と移って来た。 これらの民族・部族は、それぞれがグループを形成し、各棟に分かれて住むようになった。だが、民族間の歴史的対立やいがみ合いはかなり強いようで、ベトナム人とタイ、ラオス人あるいはベトナム人とモン族は、時おり激しい言い争いをした。そこは、デンバーに突如誕生した「東南アジア避難民アパート地帯」となった。 この東南アジア難民のアパート定住化は、本間にとっては有難かった。政府から補助金が出るため、頭痛の種だった家賃の不払い問題や室内破壊問題が解消したからだ。