風化する痕跡、刻まれた不信感 強権姿勢変えぬ習政権 中国・新型コロナ発生5年
中国で新型コロナウイルスの最初の患者が確認されてから、8日で5年。 世界的な感染拡大の震源地となったが、中国共産党は2023年2月、新型コロナ対策の「決定的な勝利」を宣言し、コロナ禍の痕跡は風化が進む。その一方、厳格に感染を封じ込める「ゼロコロナ」政策を続けた習近平政権への不信感は残ったままだ。 【写真特集】新型コロナの影響で変わる世界の風景 ◇閉鎖された商店 集団感染が世界で初めて確認された湖北省武漢市の「華南海鮮市場」。今も閉鎖されたままの建物1階に入居していた食品関連の商店は昨年春以降、市郊外に完成した新市場に移転し営業を再開した。 海鮮店の店主は「閉鎖後、2カ所を転々としてここに来た。旧市場は汚くて狭かった」と話す。ただ、市中心部にあった旧市場と違い、周辺に住宅はほとんどない。別の店主は「客が少なく商売は厳しい。閉鎖は仕方ないが、旧市場の方が良かった」とつぶやいた。 武漢は20年1月から2カ月半にわたりロックダウン(都市封鎖)された。その際、感染者急増に対応するため建設された「武漢雷神山医院」は現在は閉鎖され、無人のまま放置されている。フェンスに設置された無数の監視カメラが当時を物語るが、周辺には新しい高層マンションが立ち並び、そこだけ時が止まったようだ。 ◇失われた信用 武漢だけでなく、中国国内でコロナ禍の形跡はほとんど見られない。だが、習政権への不信感は人々の間に今も刻まれている。北京のある知識人は「中国だけが異常な政策を続けたことで、多くの人が政府を信用しなくなった」と打ち明ける。市民の不満は、22年11月に抗議活動「白紙運動」として表面化。習政権は同年末、ゼロコロナ緩和にかじを切った。 批判に直面した習政権だが、強権的な政治姿勢は変わっていない。当時、感染拡大防止のため導入したスマートフォンによる行動追跡システムなどのデジタル技術を「市民の行動把握に転用している」(北京の外交関係者)とされる。 ◇情報公開拒む 感染源がいまだ明らかにされていないことも、不信感を増幅させている。米下院特別小委員会は今月2日、感染拡大は武漢のウイルス研究所からの流出が原因とする報告書を公表した。そうした疑念が消えないのも「中国が全ての情報を公開していない」(世界保健機関=WHO=テドロス事務局長)ためだ。 コロナ禍からの回復が遅れている経済についても、習政権は先行きに悲観的な報道を封じている。だが、国内で相次ぐ凶悪事件の背景に、生活苦など募る不満があるとの見方は多い。多くの人々の命を奪った新型コロナの影響は、今も尾を引いている。