マリー・クワントの遺訓:ミニの女王から継承すべき価値観とは
モデルや写真家が果たした役割も大きい。スピーディーで軽快な動きをする新世代のモデルがマリーのファッションの若々しさ、楽しさを強調する動きで目を楽しませた。彼女たちの時に傍若無人でワイルドな瞬間を、写真家は反射的にとらえた。 新世代のミニスカートのアイコン、ツイッギーは元祖スーパーモデルとなった。エリザベス女王の妹にしてロンドン社交界の華でもあったマーガレット王女が1960年に結婚したのは、写真家のアームストロング=ジョーンズで、写真家もセレブリティとなった。 日本に与えた影響も多大である。1967年にツイッギーが来日、衝撃を受けた女性たちが百貨店や美容院に走り、タイツや帽子や靴も含めてトータルルックを買い替えたために景気を底上げした。彼女が来日した10月18日は今も「ミニスカートの日」という記念日になっている。
社会に変化をもたらしたマリー・クワント
現在、マリークワントの商標権を獲得し、ブランドを継承しているのは日本の会社、株式会社マリークヮント コスメチックスである。 1991年に本国のマリークワント社の株式を取得して経営に参加、93年には全世界の権利を獲得した。化粧品が中心の展開になっているが、全世界における販売権を保有している。 それもあって、現在ではマリークワントといえばコスメというイメージが強いのだが、もともとはトータルファッションの延長のうえにコスメも開発し、インテリアまで手掛けていたブランドである。 マリーは1960年代、1970年代と次々と新しい仕掛けを施し世に問いながら駆け抜けたが、振り返ってみれば、マリーの功績によって女性の外見が一変しただけではなかった。女性の行動や社会に向き合う態度(アティチュード)、階級意識、町の風景までがらりと変わっていた。 女性解放云々といった宣言は一言も発せず、闘争もせず、ただ、機嫌よく自分らしさを貫いたビジネスを通して、ファッションの民主化をもたらし、結果としてマリーは社会に変化をもたらしたのだ。扇動も暴動もない、ファッションによる鮮やかな革命である。 軽薄で移ろいやすいと軽視されがちなファッションだが、だからこそ、これをビジネスの主軸に据えて成功させ、社会の光景を一変させるのは並大抵のことではない。 社会に違和感を覚えたら、「着たい服がない」と感じたら、やすやすとはあきらめず、文句も言わず、さっさと自分が解放されて、自分に合う文脈を創りあげ、自分らしさを発揮できる服を着て勤勉に働く。 この主体的で楽観的な倫理観、クリエイティブな人生への向き合い方こそ、マリー・クワントの遺訓として私たちが受け継ぐべきものである。 書名:新装版 時代を変えたミニの女王 マリー・クワント 著者:ジェニー・リスター 監修:中野香織 発売日:2023年11月 仕様:A5変形 並製 総272頁 定価:2,750円(10%税込) ISBN:978-4-7661-3850-4 https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=52582