マリー・クワントの遺訓:ミニの女王から継承すべき価値観とは
イギリスのファッションデザイナー、マリー・クワント(MARY QUANT)の功績を振り返る、ヴィクトリア&アルバート博物館による世界巡回展が日本で開催されたのは、2022年の11月だった。同時に映画『マリー・クワント スウィンギングロンドンの伝説』も公開され、東京・渋谷のBunkamura周辺は、さながらマリー・クワント祭りの様相を呈していた。 初めてデザイナーとしてのマリーに触れる若い人を含め、多くの人が、彼女がファッションを通して変えた女性や社会のあり方を再認識した。翌年4月、偉大なるこのデザイナーは93歳で穏やかに旅立った。生涯の仕事が世界巡回展と映画によって総括された直後で、完璧な人生の終え方に見えた。
『時代を変えたミニの女王 マリー・クワント』を辿る
幸運にも、筆者が展覧会を監修させていただいた「マリー・クワント展」の展示そのものは当然すばらしいものであったが、同様に携わり翻訳監修した本展覧会の図録としての書籍『時代を変えたミニの女王 マリー・クワント』は通常の図録のレベルをはるかに超えていた。
マリー・クワントのファッションビジネスに参画したパートナーたちの評伝に加え、1950年代後半から1970年代にかけての社会の変化、イギリスとアメリカのファッションビジネスの違い、モデルの変化、写真家の役割、素材、広告、ヘアメイク、インテリアにいたるまで、各領域の専門家によって詳しく書かれている。 写真や図版が豊富でビジュアル本としても美しいのだが、テキスト部分における引用一つ一つに典拠が明示されているので、学術的な資料価値も高い。
案の定、展覧会図録としてはすぐに完売、中古市場において高値で取引される事態となった。もっと多くの人にこの本を届けたいと考えたグラフィック社は、2023年11月にコンパクトなサイズとして再編、書籍『新装版 時代を変えたミニの女王 マリー・クワント』として発売した。 ファッションビジネスの歴史を知りたい読者にも情報が満載で、ロンドンがもっとも活気にあふれていた1960年代のカルチャー全般に関心が高い人にとっても刺激にあふれ、ファッションはどのように社会の変化と関わってきたのかという社会学的なテーマを考えたい人にも示唆に富む。