撮影なしで動画を生成、AIビデオプラットフォーム「Augie Studio」は動画制作をどう変える?
AI利用への懸念を最小限に抑える工夫も
ここで少し話は逸れるが、5月にアメリカの女優・スカーレットヨハンソンさんが自身の声が使われたとして、Open AI社を訴えた。会話型AI「ChatGPT」用に開発された合成音声「Sky」に、ヨハンソンさんが以前演じた役の声が入っていると主張したものだ。OpenAIは5月19日にSkyの使用を停止し、弁明に追われた。 この件以外にも、数秒で楽曲を生成できるソフトを開発したAI音楽スタートアップ「Suno(スーノ)」と「Udio(ユーディオ)」の2社が6月24日、大手レコード会社から訴えられた。レコード会社はこの2社が著作権で保護された音楽をAIの訓練データとして使用し、AIモデルがその音楽を“模倣した”楽曲を生成できるようにしたとしている。 世界的に“AIと倫理”が議論のテーマになっている中で、Augie StudioはAI利用への懸念を最小限に抑える工夫を施した。 先ほども説明した通り、「ダイナミックなアセットライブラリ」で使える画像はゲッティイメージズからの提供であるほか、ボイスオーバーには認可を受けた音声のみを使用。さらにBGMとして用意されている音楽も権利関係をクリアにしている。 そのため利用者や企業は、投稿後にAugie Studioでの画像やボイスオーバーに問題が起きたから動画の内容を変更する、といった心配をすることなく、安心して編集し、映像作成に取り掛かることができるのだ。 Augie Studioは、基本的な個人使用向けの無料版から、AIスクリプトライティングやボイスライブラリへのアクセスを含む月額34ドルの「プレミアムプラン」、さらに10分間のビデオを無制限に作成でき、優先カスタム機能が提供される「エンタープライズプラン」を用意している。
激化する動画コンテンツ市場
昨今、動画コンテンツ関連の新しいソフトウェアやアプリ相次ぎ登場しており、情報に追いつくのが大変だ。続々と登場する背景には動画コンテンツの市場が年々拡大していることが挙げられる。 統計サイト「Statista」が収集したデータによれば、2023年、ストリーミングまたはダウンロードした動画を少なくとも月に1回視聴するインターネットユーザーは推定30億人を超えるという。世界人口の4割弱に上る計算だ。 動画コンテンツ市場が大きくなったことで、動画編集ソフトの市場規模も大きくなった。 ビジネスリサーチインサイトの統計では、世界の動画編集ソフトウェア市場規模は、2021年に5億4,980万米ドル(約887億円)で、2031年までに1億7,490万米ドルに達すると予測されているという。SNSを中心にデジタルコンテンツ消費が増加し、中でも動画関連のコンテンツ消費が増加しているからだ。 Audie Studio以外にも、AI動画スタートアップ「Runway」が、今月(7月)テキストから動画生成出来る「Gen-3 Alpha」をリリースし、Xなどで話題となっている。映像のシーンやテーマ、カメラアングルなどを入力すると、クリエイターが作ったような動画が出来上がる。映像のクオリティが高く、体験した人をあっと言わせた。アメリカIT企業「Google」や半導体企業「Nvidia」なども1億ドルを超える投資をしている。 企業が動画コンテンツに注力するのは、多くの消費者が動画を単純に視聴するだけでなく、検索エンジンとしても使うようになったからでもある。 購買前に製品の使用感を確かめるために、またレシピやDIYのハウツー動画、勉強方法などを調べるために活用しているのだ。特に5秒から90秒のショート動画が好まれるとも言われ、その中で新製品などが話題となれば、大きな経済効果が期待される。 また企業は自社アカウントの投稿でハッシュタグなどを用いて消費者とのコミュニケーションを図ったり、中には社員インタビューや社内の雰囲気を撮影した動画を投稿して、企業への理解度向上や人材獲得を狙った活用方法も行っている。 新型コロナの影響で伸びた動画の需要。年々加速する動画コンテンツ市場に加えて、5Gが普及したことで動画をみる消費者がさらに増加すると見込まれる。「Audie Studio」「Gen-3 Alpha」のような、AI搭載した動画編集ソフトが次々に登場し、今後も動画編集ソフトの競争が激しくなるだろう。今度も注視していきたい。
文:星谷なな/ 編集:岡徳之(Livit)