“障害者は税金を払わない”に反発した女性経営者の野望「給料を支払うためにアルバイトも」
給料を支払うためにアルバイトをするも、貯金が底を尽き…
だが現実には暗雲が立ち込めた。 「創業当初から、ビジネスとして綻びがあることはわかっていました。点字名刺はすべてアナログで行ううえに、その刻印が正しいかを責任者である私がチェックする必要があります。マンパワーが足りていないことは明らかでした」 悪化していく業績を何とか立て直そうと、当時の大政氏はなりふり構わずに行動した。 「会社を続けるために、大手飲食チェーン店でアルバイトをしました。大手企業が積極的に取り組んでいる障害者雇用に携わらせていただくなど、そこでの経験も有意義なものでした。とはいえ、もともとは少しでもお金を稼ぐためのアルバイトです。社員に給料を支払うためにはこの方法しかありませんでしたが、“悪あがき”も虚しく、いよいよ個人の貯金が底を尽いてしまいました」
二択を迫られた結果、選んだのは
理念を諦めるか、障害者事業そのものを諦めるか。二択を迫られた大政氏は理念を一旦捨てた。 「本当にさまざまなことを考え、悩みました。もしここで事業を辞めれば、10年間のすべてが無に帰することになります。それに、通ってくれている障害者の方々の居場所を奪うことにもなりかねません。給付金をもらいながら、持続可能な形で事業を行うことにしました」 冒頭で紹介した通り、現在は就労継続支援B型施設として稼働しているココロスキップ。給付金が入ることにより、創業当初よりもむしろ選択肢は広がったと大政氏は話す。 「看板商品の点字名刺は、会社としてやっていた当時早々に諦めた通信販売が軌道に乗りつつあります。障害者の方々が作ったハンドメイドを売ることで、ひとつのブランドとして捉えてもらえるようになればいいと思っています。また、ココロスキップでは内職作業も請け負っているので、通所者がより通いやすくなったと思います」
補完し合いながら、必要とされる製品を生み出す
まだ世にないものを障害者が作り、世の中に価値を見出されること。その瞬間に立ち会う大政氏は、喜びをこう表現する。 「ココロスキップでは、視覚障害者の方が点字名刺を作り、精神障害のある方がそれをチェックするなど、ペアで仕事をしてもらうことが通例です。お互いを補完し合いながら社会で必要とされる製品を生み出すことによって、社会と積極的にかかわり続けられる。たとえ障害があっても、残りの人生をそのように生きていける場所になれたら、素敵だと思います」 立派な大義名分も実行できなければ絵に描いた餅。大政氏は流儀に凝り固まることなく、柔軟に立ち回ることで障害者雇用のバリエーションを広げる目的を達した。社会から隔離されがちな人々を巻き込んで社会を活性化させる企みの底に、氏の揺るぎない使命感と優しさが滲む。 <取材・文/黒島暁生> 【黒島暁生】 ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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