【VW・ティグアン◯△✕判定】本命はディーゼル+4WD? 最新SUVに死角はあるか!?
7年ぶりにフルモデルチェンジを受けたフォルクスワーゲン・ティグアンは、日本ではCセグメント級ではあるが、同ブランドのSUVでは最上級モデルになる。ボンネットが高く、厚みを増した顔つきが印象的な3代目は、プラットフォームのアップデートと最新技術の投入により、足まわりやインフォテイメントシステムを刷新した。ガソリン車に48Vマイルドハイブリッドを搭載するなど、全方位に渡って進化している。 【写真】ティグアンの使い勝手を写真で解説 TEXT&PHOTO:塚田勝弘(TSUKADA Katsuhiro) プラットフォームはアップデート版でも走りの進化は大きい! 2019年以降に導入されたフォルクスワーゲン・グループの中で最も売れたのがティグアンで、先代は2019年にディーゼルのTDIと4WDの4MOTIONの組み合わせが受けて計5400台を販売し、ティグアンの年間最高台数を記録したという。 新型は全長4540~4545×全幅1840~1860×全高1655mmで、先代よりも全長が25~30mm長くなり、全高は25mmアップ。先代(TSIアクティブ)は全長4515×全幅1840×全高1675mmで、全幅とホイールベースの2675mmは変わっていない。プラットフォームは、新型パサートやゴルフ8.5と同様に、「MQB」から「MQB evo」にアップデート。見た目ではボンネットと全高が高くなったことで、SUVらしさが増したのと、全長が伸びたことでさらに存在感をアップさせた印象だ。同様に、Cd値が0.33から0.28へと大きく向上している。プラットフォームがアップデート版で、ホイールベースが同値ということもあり、前後席空間の居住性などは大きく変わっていない。荷室容量は652L~1650Lと、先代の615L~1655Lと通常時の容量アップがトピックス。 【ティグアンの◯は?】乗り心地と秀逸なパワートレーン パワートレーンは、1.5L直列4気筒ガソリンターボに、セルモーターを廃止した第2世代のマイルドハイブリッドを組み合わせたeTSI、2.0LディーゼルターボのTDI。駆動方式は、前者がFF、後者が4WDの4MOTIONとなる。今回、試乗できたのは前者の「eTDI R-Line」で、255/40R20タイヤに、今回から採用されたアダプティブシャシーコントロール「DCC Pro」と搭載する「e-TSI R-Line」だった。「DCC Pro」は、2バルブ独立制御式の電子制御可変ダンパー。「DCC」は伸び側と縮み側をひとつのソレノイドバルブで調整していたのを、伸び側と縮み側それぞれ備え、1秒間に1000回ダンパーの調整が可能だという。 試乗した「R-Line」は、255/50R20タイヤを装着するが、先代と比べて乗り心地は速度域を問わずフラットライドになっていて、とくに先代で気になった左右に揺すぶられるような嫌な動きがなくなり、路面の凹凸のいなし方も巧みになっている。「DCC Pro」なしのモデルとの比較はできなかったものの、21インチタイヤも決してオーバーサイズという感じもなく、履きこなしているのは朗報だ。この「DCC Rro」は、電子制御ディファレンシャルロックの「XDS」と協調制御され、走りに応じて4輪独立で可変制御するのも謳い文句だが、定評ある高速域の直進安定性はもちろん、山道でのコーナリングでも思い描いたラインを正確にトレースするようにクリアしていく。高速道路でも山岳路でも気を使わずに運転できる。 また、1610kgの車両重量に対し、1.5Lガソリンターボの110kW(150PS)/250Nmというエンジンスペック、13.5kW(18PS)/56Nmのモーターアシストは心許なく思えるかもしれないが、数値以上にパワフルで、デュアルクラッチトランスミッションの7速DSGのスムーズで細かな変速もあって力不足はまったく抱かせない。高速道路でも容易に流れをリードできる。7速DSGは、極低速域のマナーも良好で、登り坂などでブレーキを離すと、クラッチがつながるわずかの間にクルマがほんのわずか後退するような動きが散見される以外、初めてのDSGでもほとんど違和感なく乗れるはずだ。 【ティグアンの△は?】慣れが必要な最新のインフォテイメントシステム 新型は、最新のインフォテイメントシステムである「MIB4」に進化し、「R-Line」と「Elegance」は、15インチ、「Active」は12.9インチに大型化された。15インチは慣れるまで大きさに少し戸惑ったが、もちろん、前方視界を妨げる配置ではなく、視認性は高い。操作は初めてだと慣れが必要だが、エアコンやナビなどの操作はしやすい。一方で、走行モードやシートマッサージ、車両設定などは、画面にあるアイコンを押してから階層に入る必要がある。走行時には、画面を注視も操作もしない前提ではあるものの、操作性はまだこなれていない感じもする。ただし、ティグアンには、センターコンソールに「ドライビング・エクスペリエンス・コントロール」が用意されているのが大きい。ダイヤル操作で音量や運転モードの切替などが可能でこちらの操作性は良好だった。 なお、多機能化が進む中、タブレットのような大画面に操作系を集中配置する手法はトレンドになっているが、メルセデス・ベンツやBMWなどのように音声操作でフォローする流れもできている。 惜しい……と感じられたのは、その音声操作の手法だ。メルセデス・ベンツやBMWのようにAIを使った対話式ではなく、またフォルクスワーゲンが以前採用していたドイツ本国のサーバーを介した方法ではなく、つまり、ネットワークに接続されていないローカルで完結しているため、コマンドが必要だったり、読み取ってもらえる機能に制約があったりする。ただし、温度設定の変更などは一発で認識してくれるなど、使用頻度の高い機能については問題なさそう。また、地図画面も大画面で見やすくなる一方で、ナビの目的地検索などは、ほかではあまり見ない独特の操作画面で、こちらも慣れが必要だ。ただし、通信モジュールやコネクティビティ機能が用意されていて、今後の進化に期待だろう。 【ティグアンの✕は?】明確な✕は見受けられず… 短時間の試乗では、ナビ画面の操作性がこなれていない以外は、明確な×は見受けられず、足まわりをはじめとしたシャシーのよさ、驚異的といえるほど高い完成度を誇る1.5Lガソリンターボ+48Vマイルドハイブリッドなど、走りに関するトータルバランスの良さが光った。本命はディーゼル+4WDの組み合わせになるだろうが、次の機会が楽しみだ。
塚田 勝弘