「とどめ刺したのは社労士の兄」脳と心臓がやられた親4人、不登校の息子、自分も大借金…40代女性の壮絶戦記
■毒親の連鎖 森山さんが育った環境については、夫も子どもたちも理解を示してくれている。長男は「伯父さんがいるのになんで母さんばっかり」と言って憤慨し、次男は放課後デイサービスの先生たちに「うちの母さんは、お祖父ちゃんお祖母ちゃんに振り回されて大変なんだ」とエピソード付きで話しているという。 「本当に、今思えば母にとっての子どもは完全に所有物で、私なんてマネージャーか駒でしたね……」 そう言って森山さんは振り返るが、まさに兄は愛玩子、森山さんは搾取子の典型だった。都合の良いように使われてきた森山さんは、社会人になってから、子どもの頃に満たされなかった心を埋めるように、買い物依存や元カレへの依存に走ってしまった。しかし、苦しみながらも自分の人生を生きるためにあがき続け、夫とぶつかりながらも、現在は居心地の良い家庭を築くに至った。 「私が買い物依存に陥り、借金してしまうほどになってしまったのは、母の影響が大きかったと思っています。すべてお金で解決させられてきたんです。誕生日やクリスマスのプレゼントはお金でした。中学からは母の代わりに家事をして2万円。高校生の頃はお弁当代に毎日1000円もらっていました。母との行動は全てタクシー移動でしたし、買物はデパート。私自身もお金で解決する癖や贅沢が染みついていたのだと思います」 誕生日やクリスマスのプレゼントもお弁当もお金ということは、合理的なようで実はとても残酷だ。「お金が一番でしょ」と言って思考停止し、「何がほしい?」「何が食べたい?」という親子の対話さえなかったことを意味している。 母親の母親(母方の祖母)も贅沢三昧な人だったようなので、もしかしたら母親は、お金を渡すことしか親としての務めを果たす方法を知らなかったのかもしれない。 祖父も父親も家庭に目もくれず、自分優先で好きなように生きていた。もしかしたら母親も祖母も、本当にやりたかったことを諦めて、たった一人で家事や育児に向き合う孤独や苦悩に耐えきれず、贅沢に依存したのかもしれない。 そうであってもなくても、家庭を顧みず、妻を放置していた父親と祖父の罪は重い。特に、自分だけさっさと入院して、手に負えない妻を娘に押し付けて逃げた森山さんの父親は、最後まで親としての責任を果たしていないだけでなく、伴侶としての責任も放棄しており、大人としてのプライドも感じられない。 「最悪の場合を考え、父と母を離婚させて母を生活保護にする案も出ています。そうすれば父親の貯金も私の家庭も守れます。実家を売って、そのお金で父を施設に入れる話もあります」 同居していた義両親も大変だった。 2016年11月から特養に入所していた義父は、2021年2月に誤嚥性肺炎を起こし、病院で亡くなった。91歳だった。82歳の義母は、2016年に狭心症の手術を受けたあたりからうつ病を発症し、現在は森山さんたちに見守られながら暮らしている。 この6月下旬に、森山さんは兄と父親とで今後のことを話し合う予定だ。 「築46年の一軒家なので、いくらで売れるか検討もつきませんが、母はプライドが高いので離婚も生活保護も拒否しそうです。兄は賛成しています。父は五分五分でしょうか……」 贅沢三昧してきた親のために、子や孫が割を食うのは筋が通らない。森山さんは自分たちが幸せになることを優先してほしい。 ---------- 旦木 瑞穂(たんぎ・みずほ) ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する連載の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、東洋経済オンライン「子育てと介護 ダブルケアの現実」、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、日経BP 日経ARIA「今から始める『親』のこと」、朝日新聞出版『AERA.』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。2023年12月に『毒母は連鎖する~子どもを「所有物扱い」する母親たち~』(光文社新書)刊行。 ----------
ノンフィクションライター・グラフィックデザイナー 旦木 瑞穂