アングル:トランプ氏の「不法移民大量送還」、費用と根拠法と抵抗勢力
Ted Hesson Kristina Cooke [ワシントン 6日 ロイター] - 米国のドナルド・トランプ次期大統領は、連邦政府のさまざまな機関を総動員して記録的な数の不法移民の強制送還に協力させ、1期目の経験を活かして、手当たり次第あらゆるリソースを活用し、移民に寛容な「聖域」と呼ばれる州・地方自治体にも圧力をかける見通しだ。 6人の前トランプ政権当局者や陣営関係者に話を聞いた。 <大量送還、抵抗自治体には公費で圧力も> 今回の大統領選で勝利したトランプ氏は支持者に向けて、米国は自分に「前例のない強力な信任」を与えたと語った。 第2次トランプ政権に参加する可能性のある人物を含むトランプ陣営関係者によると同氏は、不法移民の大量送還という選挙公約を実現するため、米軍から各国駐在の米外交官まで、あらゆる方面に協力を求めるだろうと予想している。共和党優位の州に協力を求めるだけでなく、抵抗する州・自治体に圧力をかけるため連邦予算が投じられる可能性もある。 トランプ氏は大規模な不法移民取り締まりを掲げてホワイトハウスを奪還した。返り咲きを目指す選挙運動の柱となったのは、過去最高の数の不法移民を強制送還するという公約であり、J・D・バンス次期副大統領の試算では、年間100万人を国外退去させる作戦になる可能性もある。 移民の人権擁護に取り組む人々は、トランプ氏の強制送還計画は費用がかさむだけでなく、分断の原因となる非人道的なものであり、家族の離散やコミュニティーの荒廃につながると主張している。 トランプ氏は2017-21年の大統領在任期間中、強制送還を増やすのに手こずっていた。政府統計によれば、強制送還と米国境警備隊によるメキシコへの「即決退去」を合わせると、バイデン政権は2023年度に、トランプ政権時のどの年よりも多くの不法移民を強制送還した計算になる。 だが100万人単位の強制送還計画となると、担当者や宿泊可能な収容施設、移民審査に当たる裁判官を大幅に増員する必要がある。移民人権擁護団体である米国移民評議会では、米国内の不法移民1300万人を強制送還するには、10年余りで9680億ドル(約148兆2785億円)の費用がかかると試算している。 第2次トランプ政権入りが予想されるトム・ホーマン元米移民税関捜査局(ICE)局長代理は10月末に行われたインタビューで、強制送還の規模は、どれだけの担当者と収容スペースを新たに確保できるかにかかっていると話している。 「すべては予算次第だ」とホーマン氏は言う。 <送還に反対する人権団体> 新たなトランプ政権は1期目で重ねた経験を活かせるとはいえ、亡命を希望する移民の審査に当たる職員を含め、イデオロギー的に対立する政府職員からの抵抗に再び直面する可能性はある。 米自由人権協会(ACLU)と複数の移民人権擁護団体は、トランプ氏が再び自身の法的権限を踏み越えようとする場合に備えて、裁判で争う準備を進めてきた。賛否の別れた、家族引き離し政策に反対する闘争の先頭に立ったACLUのリー・ゲラント弁護士によれば、今年に入ってから、移民問題を専門とする15人以上の弁護士がACLU全米本部とともにトランプ氏返り咲きの可能性に備えた準備を進めてきたという。 ゲラント氏は「彼らは以前よりはるかに準備万端で臨んでくるだろうから、私たちとしては連携を固め、これまで以上のリソースを用意することがどうしても必要だ」と語る。 <政府機関からの難色も> 複数のトランプ陣営関係者によれば、トランプ氏が1期目よりも特に積極的に働きかける可能性があるのは国務省だという。 不法移民の強制送還において重要な鍵となるのは、他国が自国出身者を受け入れるかどうかだ。1期目にあまり成果が上がらなかった際も、トランプ氏はこの問題に直面していた。トランプ政権はメキシコなどの近隣諸国に対し、不法移民がメキシコから流入する動きを阻止する対策をとるよう求めたが、説得が難航することもあった。 トランプ政権下で国土安全保障省副長官代理を務めたケン・クチネリ氏は、国務省は不法移民対策における「障害」になるとして、政権が積極的な高官を任命することが鍵になるという。 2019年から2021年にかけてメキシコ駐在米国大使を務めたクリストファー・ランドー氏は、先日、米国の外交官の一部が移民問題への対応に消極的なことに怒りを覚えると語った。 移民制限を支持する研究団体、移民問題研究センターが10月に行ったパネルディスカッションで、ランドー氏は「外交官の誰1人として自らの問題として捉えていない」と発言した。 ICEの職員2万1000人のうち約半分は、国土安全保障捜査局(HSI)に所属しており、任務の中心は不法移民対策ではなく、麻薬密輸や児童虐待など国境を越えた犯罪への対応だ。複数のトランプ陣営関係者は、HSIはもっと移民対策に時間を費やす必要が出てくるだろうと語っている。 HSIは近年、強制送還に関与すれば所属の捜査官らが移民コミュニティーの中で信頼関係を築きにくくなるとの懸念を理由に、ICEの移民関連業務とは距離を置いてきた。 第1次トランプ政権の移民政策を立案したスティーブン・ミラー氏は2023年、不法移民の強制送還に抵抗する州には、送還に協力的な州の州兵が派遣される可能性があると発言した。実現すれば、法廷闘争につながる可能性が高い。 <「外国人・治安諸法」、発動はあるか> トランプ氏は犯罪組織の構成員と疑われる者を迅速に強制送還するため、「外国人・治安諸法」と呼ばれる1798年制定の戦時法を発動する計画だ。この措置が法廷で争われることはほぼ確実だ。 左派系のブレナン司法センターによれば、この法律は1812年の米英戦争、第1次・第2次世界大戦の3回発動されている。最後の例では日系、ドイツ系、イタリア系住民の強制収容を正当化するために用いられた。 ブレナン司法センターなどは、連邦議会に対し同法の廃止を呼びかけてきた。 ACLUの政府対応担当副ディレクターを務めるノーリーン・シャー氏は10月末、「第2次トランプ政権がこの法律を使い、無期限の収容や司法による検証のない迅速な国外退去を正当化するのではないかと恐れる声は多い」と書いている。 トランプ政権時代に国土安全保障省の職員だったジョージ・フィッシュマン氏は「外国人・治安諸法」の発動について、トランプ政権は当該の不法移民が外国政府によって派遣された者であることを証明する必要があるだろうと話している。 「過剰な約束ではないかと少し心配している」とフィッシュマン氏は述べた。 (翻訳:エァクレーレン)