“珍装備”が個性的だった1990年代の日本車3選
(2)日産「ルネッサ」:リムジンシート
日産自動車が1997年に発売した「ルネッサ」は、セダンに代わって拡大しつつあったRV(レクリエーショナルビークル)市場向け。当時の日産の定義によると「MAV(マルチアメニティビークル)」。このアルファベット3文字は以降、目にしたことがない。 ルネッサの特徴は、2800mmのロングホイールベースを活かし、広い室内空間を実現した点。そこにシートを3列に並べず、あえて2列の5人乗りのまま。後席シートは570mmのロングスライド機構をもち、前席には回転対座機構が組み込まれていた。 1675mmの全高のため、一見、背の高い、今の言葉でいえばクロスオーバータイプのスタイリングは、なかなか上手にまとまっていた。もし、企画どおりに出来上がったら、これはこれで利便性の高いモデルになったかもしれないが、実際には後席の使い勝手はよくなかった。これは“珍”パッケージである。 床の高さとシート座面の高さが適切でなく、後席に腰をおろすと、足を前に投げ出す必要があった。これはミニバンの走りといわれるルノーの初代「エスパス」と同じ問題。頭上の空間を確保しようと座面を低くしたことで、座卓みたいなポジションをとらざるをえなくなったのだろう。 本格的な日産のミニバンはこの頃、数多く発表された。1998年には「プレサージュ」「プレーリーリバティ」、1999年には2代目「セレナ」「バサラ」、という具合。同時に「エルグランド」や乗用車的になった「テラノ」もあり、ルネッサが活躍できる場面はほとんどなかった。
(3)オートザム「レビュー」:3ウェイ式電動キャンバストップ
マツダが1989年に設立したブランドのオートザムから、1990年に登場したのがオートザム レビューだ。2390mmのショートホイールベースのシャシーに、全長3800mmのコンパクトなノッチバック4ドアボディを載せたモデルだ。 プロポーションは均整を欠くことになってしまったものの、短い全長に対して、あえて最大で1495mmの全高の組合せ。大人が4人乗っていられるパッケージになっている。トールボーイスタイルのコンパクトカーというコンセプトは、後継ともいえる「デミオ」(1996年)でも採用された。 あえてキュートさを狙ったと言われたレビューのスタイルは、当初、狙い通りに女性ターゲットの拡大に成功。ただし、市場が飽和してきたと見たせいか、次のデミオはパキパキとキャラクラーラインが入った、機能主義的なスタイリングとなった。とはいえ、レビューの生産は並行して1999年まで続いたので、それなりに人気が高かったのだろう。 レビューに採用された新機構が、独自の設計による3ウェイスライド式キャンバストップだ。ルーフに大きな開口部を設け、そこに電動スライド式のキャンバストップをはめこんだ欧州スタイル。3ウェイとは、前だけ、後ろだけ、そして前後を開けてトップは中央でたたむ、と、3通りの開け方が可能だった。 多様な開きかたができるキャンパストップという点では、のちのフィアット「500C」(2016年)や「ミニ コンバーチブル」(2015年)といった、凝った構造のソフトトップ採用のオープンモデルにもどこかで影響を与えているかもしれない。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)