DV 逃げる選択を 別れぬ被害者7割 茨城県内支援者「自立後押し必要」
茨城県内で、配偶者からドメスティックバイオレンス(DV)を受けても別れられない被害者がいる。内閣府によると、DVを受けた被害者の約7割が加害者と別れていない。うち約7割が「子どもがいるから」を理由に挙げる。支援者は「子どものために離れるに越したことはない。まずは、別れる選択肢を取るための支援が必要」と語る。 ▽ためらい 「子どものためというのもあるけれど、自分を守りたいために通報できなかった」 同県内に住む40代の女性と子どもは、元夫から暴力を受け続けてきた。児童相談所が子どもへの暴力を発見し通報した。元夫は、傷害の罪で懲役刑が確定し、接近禁止命令も出された。 子どもは虐待が原因で不登校になり、父親の逮捕後も「森の中でパパに殺される夢を見た」「もっと優しいパパがよかった」と嘆く。女性は数十年以上にわたり暴力を受けていたが「子育てが忙しくて、くよくよしていられなかった」と振り返った。 通報しようとしたことはあるという。だが、元夫から「許さない」と口止めされ、「通報したら、もっとひどいことをされるかもしれない」と恐怖におびえた。今後も「執念深い人だから何するかは分からない」とつぶやいた。 女性は冗談交じりに「私がさみしくなって会いたくなっちゃうかも。けど、もう会わないって決めたから」と複雑な胸の内を明かす。「今は、とにかく(元夫から)逃げることに必死。でも、通報できてよかったのかな」と空を見上げた。 ▽決断 県内でDV被害者の相談を受け付けている、NPO法人ウィメンズネット「らいず」事務局長の坂場由美子さんは、子どもを理由に別れない実態について「無意識に子どもを盾にしていることがある」と話す。 被害者は日々暴言を浴びせられ、自立する自信をなくしていくという。自立しない言い訳として「『子どものため』と自分以外の理由を付ける」とし、「DVは子どもの発達にも悪影響をもたらす可能性が高い」と懸念する。 だが、夫婦などが実際に別れるのは容易でない。内閣府によると、被害者の約6割は誰にも相談していない。坂場さんは「加害者に監視され、相談や通報がしにくいことが背景にある」と説明する。さらに、勇気を出して駆け込んだ相談先で「別れると決めてから来てください」と、支援を拒まれるケースさえあるという。 坂場さんは結果的に「別れない方がよかった」と思わせてしまう社会の側の問題も指摘しつつ、DV被害者に本当に必要なものとして「相談を通して、経済的自立など、別れる決断を後押しする(新たな収入源などの)材料を決めること」を挙げた。 ▽伴走 4月に改正されたDV防止法について、接近禁止命令の有効期間が6カ月から1年に変更されたが、坂場さんは「まだ短い」と指摘する。相談や通報により、相手を結果的に逆なですることになり、被害者だけでなく家族や弁護士に矛先が向くことさえあるという。 坂場さんは「逃げる時は、実家にさえ住所を告げずに身を潜めることがある」とし、「現状の法制度では被害者を守り切れない。被害者がその人らしさを取り戻せる伴走支援が必要」とし、一層の対策強化を訴えた。
茨城新聞社