「強運の前大統領は突然の惨劇を"トランプ劇場"に変えた!」 暗殺未遂事件と大統領選の行方を徹底分析
「銃撃からおよそ30秒後、トランプ氏は警護官に抱き上げられながら、右手の拳を突き上げて健在を示すパフォーマンスを見せます。心配そうにしていたトランプ支持者たちからは歓声が上がり、支持者たちの歓喜の中でSUVに運ばれていきます。 あの混乱の中、突然の悲劇を一挙に"トランプ劇場"に変えてしまう動きは、到底79歳とは思えません」(布施氏) 暗殺未遂事件すら自らが主役を演じる劇場に変えてしまった政治モンスター。これで大統領選の勝利を確実なものにしたのだろうか? 「確かに支持者の支持を固めることには成功しましたが、ここにいる人たちは何があっても、もともとトランプ氏に投票する人です。肝心なのは浮動票である無党派層。この人たちが今回の事件を受けてどう反応するか、まだ見えていません」(布施氏) では11月まで選挙運動が続く中、再びトランプ銃撃のリスクはあるのだろうか。 「銃社会のアメリカでは容易に銃器が手に入るという意味では、リスクはなくならないでしょう。ただ、トランプ氏が狙われ続けるかと言われるとモヤモヤが残りますね。 そもそも、武器を持って政治的暴力に訴えるリスクがあるのは、先の議会襲撃事件の件を見てもトランプ支持者の方であって、民主党支持者が暴力に訴えてトランプ氏を排除しようとするイメージは湧きませんよね。 今回の犯人も民主党支持者ではなく共和党支持者でしたが、なぜ、共和党の支持者がトランプ氏を狙ったのかも腑に落ちません。 さらに、バイデン支持者や民主党支持者が暴力でトランプ氏を狙い続けるのか、と言われると、銃社会ですし暗殺リスクはなくなりはしませんが、果たしてそうなのかな?という疑問は残ります。 心配なのはこの事件に刺激されて国内の民兵や白人至上主義者といった、FBIが国内テロ集団とみなしている組織が活気づくことでしょう。「政治的に認められないこと、思想的に気に食わない相手は暴力に訴えていいんだ」という歪んだ風潮がこの事件で浮上してこないか、アメリカという国を見ていくうえで重要な視点になると思います。 今回の事件ではむしろ犯人が共和党員だったことは不幸中の幸いだったかもしれません。米国は一部の学者が内戦のリスクすら指摘するほど政治的対立、政治的分断が激しい。そんな状況下で、民主党支持者がトランプ氏を狙ったということだったら、一気に緊張が高まって選挙どころではない不穏な空気になっていたかもしれません」(布施氏) 暗殺未遂を見事に切り抜け、強運を見せつけたトランプ氏。持っている運を使い果たしたとはいえないのだろうか? 「周りの多くの側近たちは事件に巻き込まれたり捜査対象にされたりしていますが、本人は2度の弾劾も切り抜け、機密文書をめぐる裁判も棄却、再出馬にこぎつけましたからね。運も実力もまだまだあると言わざるを得ません。やっぱり怪物ですよ......」(布施氏) 怪物・トランプ氏の米大統領選は、この先どうなるのだろうか......。 取材・文/小峯隆生